https://www.jscm.org/journal/full/02401/024010041.pdf

陰部からの感染が疑われた劇症型溶血性レンサ球菌感染症

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は,Streptococcus
pyogenes(S. pyogenes)によって引き起こされる重
症感染症で,基礎疾患や免疫不全状態を示唆する既往
を持っていない患者に突然発病することが多い。初発
症状として咽頭炎,四肢の疼痛,発熱,血圧低下など
がみられ,病状の進行が極めて急激かつ劇的である。
発病後には数十時間以内に軟部組織壊死,急性腎不
全,急性呼吸窮迫症候群,播種性血管内凝固症候群を
併発し,多臓器不全やショック症状などの重篤な状態
に陥る。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は 1980 年代
後半に欧米で多数報告されるようになり,ブドウ球菌
による toxic shock syndrome(TSS)に類似している
ことから 1987 年より「toxic shock-like syndrome:
TSLS」の名が用いられるようになった1)
。日本にお
ける最初の典型的な症例は 1993 年に報告された2)

今回我々は,健常人に不潔な性交渉を契機として発
症したと考えられる劇症型溶血性レンサ球菌感染症を
経験し,患者から分離された S. pyogenes の細菌学的
性質を加えて報告する。

症例患者:40歳代,男性主訴:外陰部痛既往歴:めまい症家族歴:特記事項なし現病歴:風俗店に行き口腔性交渉を受け帰宅後に陰部の痛みがあり,翌日には痛みが増強し午後9時半頃痛みによって仕事ができなくなったため,近医を受診,入院となった。翌々日,収縮期血圧70mmHg,血液検査において肝機能障害,腎機能障害を認め,当院救命センターに転院となった。来院時現症:意識清明,血圧8252mmHg,体温35.4℃,脈拍数91min,呼吸数27min。陰嚢,陰茎は暗赤色に変色し腫脹を認めるが,肛門周囲には腫脹などを認めなかった(図1―a,b)。下腹部に圧痛あるが,直腸診上圧痛なく腸音も異常を認めなかった。
院時の血液検査ではWBC11,900μL,CRP24.9mg dL,と著明な炎症反応の上昇と肝機能および腎機能障害を認めた(表1)。画像所見:入院時の腹部および陰部CT所見では,下腹部皮下脂肪組織の濃度上昇を認め皮下組織の炎症が考えられた(図2―a)。また,陰嚢,陰茎の皮下組織に腫脹を認め,浮腫と考えられた(図2―b)。治療経過:来院時に実施した陰部膿汁のA群溶血性レンサ球菌抗原検査が陽性を示した。これらより,劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断基準3)のI項B,II項A,II項Bの1,2,3に相当する「正常でも菌の存在する部位からのA群溶血性レンサ球菌の検出,収縮期血圧の低下,腎機能障害,血液凝固障害,肝機能障害」の各項目を満たし,他の感染源もないことから,A群溶血性レンサ球菌による劇症型感染症と考えた。来院時ショック状態であったことから,大量輸液を開始した。来院約1時間後の収縮期血圧80 mmHgであり,昇圧剤およびメロペネム(MEPM)1 g,免疫グロブリン製剤の投与を開始した。来院約2時間後,収縮期血圧が200mmHgに急激に上昇したため昇圧剤の投与を中止した。以後,輸液療法のみにて収縮期血圧が100〜120mmHgで推移したため,MEPM3g日,クリンダマイシン(CLDM)2400mg日,免疫グロブリン製剤を投与し,患部のデブリードメントおよび洗浄にて保存的加療を行った。これにより,陰嚢,陰茎の腫脹は徐々に改善,炎症反応も低下した。第6病日にはWBC 15400μl,CRP 7.8mgdlまで低下し,局所壊死の進展がないことより,抗生剤をペニシリンG(PCG)2400万単位日,CLDM2400 mg日に変更した。第7病日,全身状態が安定したため形成外科に転科し,第14病日に再度デブリードメントおよび植皮術を行った。以後も経過良好であり,第27病日軽快退院となった。

https://i.imgur.com/iwZWuns.jpeg