別稿で指摘した通り、最近の「イスラーム国」の活動は一言で言うと「さっぱり」で、政治的に見るべき点は全くと言っていいほどない。
同派が何よりも熱心に取り組んできたはずのイスラーム圏での「背教者(=「イスラーム国」と宗教・宗派的帰属が同じ者たち)」への攻撃も最盛期に比べればかなり減少し、最近の同派の「戦果」はサヘル地域やコンゴ、モザンビークのようなアフリカの、しかもこれらの地域でも僻地と思われる所で村落を襲撃し、一般の住民を殺戮するものの割合が上昇している。一方、最近の「イスラーム国」の活動で注目すべき点は、アメリカやイスラエル(≠ユダヤ)と戦っているかのように装いつつ実はこれらを一切攻撃しないところだ。
アメリカやイスラエル(≠ユダヤ)を攻撃すれば強力な反撃が予想されるため、「イスラーム国」も現世的な組織の成功や存続を考えてそのような対象への攻撃を控えることになる。となると、「イスラーム国」はある程度広報効果が見込まれ、なおかつ大した反撃をしてこないであろう「敵」を探し出さなくてはならない。EU諸国のいくつかがイスラーム過激派に執拗に攻撃される原因の一端はここにある。
少なくとも軍事的にイスラーム過激派と戦う術を一切持たない本邦も格好の攻撃対象に見えるし、「イスラームへの敵対」という観点からは世界で最高水準の中華人民共和国もいつでも攻撃対象になりそうだが、これらがイスラーム過激派から特につけ狙われていると信じるに値するような材料はない。
そうした状況下で「イスラーム国」の攻撃対象として浮上してくるのは、今般のロシアや2024年1月4日に爆破事件が発生したイランのような「アメリカ(やイスラエル)の敵」達だ。「イスラーム国」とその支持者・模倣者の粗雑な世界観では、アメリカとロシアとの対立は認識できず、両方とも「十字軍」にしか見えない。イランについても、イスラーム共同体の内部に巣食う「ラーフィダ(シーア派の蔑称)」として外敵よりも先に殺すべきものでしかない。
つまり、イランとアメリカやイスラエルとの競合や敵対は「イスラーム国」とその仲間たちには知覚できない。しかも、「イスラーム国」にとって都合のいいことに、ロシアやイランを攻撃しても欧米諸国の政府や世論はたいした反応をせず、「イスラーム国」への取り締まり強化の圧力が増さない。シリア紛争の際に見られたように、アメリカなどの諸国は自らの政治的都合によって「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派を黙認・放任するどころかそれと知りつつ支援することも少なくないので、現世での成功と組織の安寧を願う「イスラーム国」の経営者たちが「攻撃対象を選ぶ」のはいたって合理的なことだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a75c3966feff7c66abdf1c986d1ec1227406c3ef