2022年2月ごろ、大阪府の高島淳子さん(61)は、1人暮らしの次男・晨伍(しんご)さんの様子に異変を感じた。息子は医師。神戸市にある「甲南医療センター」の消化器内科に勤務し、毎日、自宅を早朝に出て深夜に帰宅する日々が続いている。土日もない。
 以前から2週間に1回程度、神戸市の下宿先に寄って掃除をしたり、差し入れをしたりしていた。ただ、きれいだった部屋が次第にゴミが散乱するようになっていった。冷蔵庫にはゼリー飲料しか入っていない。



職場の様子を尋ねると、指導医とのこんなやりとりを明かした。
 「忙しくて勉強する時間がないと相談したら、『俺は1日20時間働いていた。年に5日しか休んでいない』と言われ、説教された」



心配でたまらず、車で息子の勤務先へ。車に乗せると、「もう無理や」と取り乱した様子で泣き出した。

 「休ませてもらおう」と提案したが「訴えても無理。休職したら二度と戻れない」
 とりつく島がない。翌16日も車で迎えに行ったが、車内で同じように泣き出した。ただ、最後に「ありがとう」と言われた。
 晨伍さんは17日、自宅で死亡した状態で発見された。近くに遺書が置かれ、「限界です」と書かれていた。まだ26歳だった。

過酷な勤務実態は、西宮労働基準監督署の調べで明らかになった。亡くなる1カ月前の残業時間は207時間、連続勤務は約100日間に及んでいたという。23年6月、自殺は長時間労働が原因として労災認定された。


甲南医療センターは、西宮労基署が認定した長時間労働に、こう反論している。「労働時間に当たらない、自己研さんの時間が含まれている」
 一方、兄は「自己研さん」と業務との線引きは非常にあいまいだとした上で「幅広い業務が自己研さんとされかねない」と懸念している。「病院で患者の個人情報のかたまりであるカルテに向き合う時間は少なくとも、労働時間とするべきだ」
 納得がいかない淳子さんは今年2月、夫とともにセンターの運営法人と院長に損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしている。

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