米国では、セキュリティー・クリアランスが大戦直後から行われていたことが分かる。日本でも今国会で、セキュリティー・クリアランスに関する法案が提出されているが、安全保障に関わる政府の審議会委員も同法案の対象とすることを検討すべきだろう。

再生可能エネルギーに関する内閣府のタスクフォース(特別作業班)に提出された資料に中国企業のロゴがあった問題は、単純な事務ミスではない。

そもそも事の発端は「脱原発」である。かつて大阪府・市のエネルギー戦略本部でも同様の議論があった。当時の大阪府知事や大阪市長は、のちのち「騙(だま)された」と語っていたが、本当に騙されなくて良かった。

しかし、今回は、①脱原発を政治信条とする政治家②脱原発活動を政府内で行う官僚③政府外で行う活動家④これらのトライアングルに食い込む外国勢力⑤これらの関係をあまり報じない大手マスコミ―という構図だ。

今回の事件で、この構図が図らずも表にあぶり出されたが、大手マスコミはあまり報じないので、もっぱらネット上や国会で話題になっている。玉木雄一郎代表の国民民主党や日本維新の会は国会でも取り上げているのは救いでもある。

①~③と⑤はこれまでもしばしば見られたものだ。しかし、今回の件は、④外国勢力が食い込んでいる疑いがあるのが特色だ。

脱原発は根強い支持がある。東日本大震災の際の福島第1原発の事故を見ると、そう主張したくなるのも分からなくはないが、実際に脱原発を行ったドイツはどうなったのか。

隣国の原発大国フランスと天然ガス大国ロシアに依存せざるを得なくなったが、安全保障上ロシアへの依存はできないという状況だ。

これを考えると、日本の場合、隣国の専制国家中国とロシアに依存することはできない。再生可能エネルギーですらも自給率を高めざるを得ないのだ。

しかし、脱原発派は実現を急ぐあまり、中国に過度に依存した再エネ戦略に乗らざるを得ない。これは、エネルギー政策からも経済安全保障政策からも間違いだ。これが今回の問題の背景にある。

脱原発も、海外勢力の国内浸透がないのなら、エネルギー政策上の意見の相違として、程度問題ではあるが許容されたかもしれない。しかし、海外勢力を利用するようなことは、安全保障上、看過できない問題だ。

脱原発というの目的達成のためなら、手段を選ばずという左派によくありがちの側面が、今回の件で明らかになったといえるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

https://www.sankei.com/article/20240407-A2OVJSUK7REG7LQNGKPVG6IFSI/