神へのショートカット 聖典AIのお告げにご用心 - 日経サイエンス
https://www.nikkei-science.com/202406_051.html

昨年のラマダン初日の午前零時直前,インドのコルカタに住んでいるカーン(Raihan Khan)という20歳のイスラム教徒の学生がQuranGPT(コーランGPT)を立ち上げたことをリンクトインへの投稿で発表した。利用者からの質問に対し,イスラム教の聖典コーランに基づいて答えと助言を提供するように彼が設計した人工知能(AI)チャットボットだ。その後カーンは床に就いた。そして7時間後に起床すると,コーランGPTはアクセス集中のためにダウンしていた。多くのコメントは肯定的だったが,そうでないものもあり,完全な脅迫まであった。

最初はプレッシャーを感じて公開をやめようと思ったが,最終的に思い直した。彼はAIが人々を最も深遠な宗教的問いの答えに導く橋渡し役になると考えている。「自分たちの宗教に近づきたいと思いながら,その宗教をもっとよく知るためにあまり時間をかけたくはないという人々がいる」とカーンはいう。「それなら,質問プロンプトひとつで簡単にアクセスできるようにしたらどうだろう?」

いまや世界中の約23万人に使われているコーランGPTは,最近オンライン上に登場したこの種のチャットボットのひとつにすぎない。宗教文書で学習訓練したAIはこのほか,聖書に基づくBible.Aiやヒンドゥー教の聖典バガヴァッド・ギーターのGita GPT,仏教のBuddhabot,使徒パウロによるApostle Paul AI,16世紀ドイツの神学者ルター(Martin Luther)を模擬するチャットボット,孔子の書を学習したもの,さらにはデルフォイの神託を模擬するものもある。

様々な宗教の信者は昔から,こうした聖典を長い時間をかけて研究し(ときには全生涯をかけて),人間の存在の最も深い神秘を洞察しようとしてきた。例えば死後に魂がどうなるかといった謎だ。

これら宗教チャットボットの作成者は,大規模言語モデル(LLM)がこうした長年の神学的謎を解くとは必ずしも考えていない。だが,大規模言語モデルは大量のテキスト中にある微妙な言語パターンを見つけ出す能力があり,ユーザーが入力したプロンプトに対して人間の言葉で回答を返す自然言語処理によって,これらのボットが理論上はものの数秒で宗教上の洞察を合成でき,利用者の時間と労力の両方を節減できると考えている。神の知恵をオンデマンドで得る手段だ。

続きは2024年6月号の誌面でどうぞ。

著者
Webb Wright
ニューヨーク市ブルックリン在住のフリーランスの科学ジャーナリスト。

原題名
Shortcuts to God(SCIENTIFIC AMERICAN April 2024)