キーウ中心部の独立広場を訪ねると、来るたびに増えていた戦没者を弔う小旗が、もはや地面が見えないほど芝生をびっしりと埋め尽くしていた。

 自営業アルトゥル・イアスティブリアクさん(24)は「恐怖という感情があったのは昨年までです。いまはただただ疲れ果てています」と漏らすと、政府への憤りをあらわにした。

「政府は間違った方向に進んでいます。あらゆる手で人々を戦場に押し込もうとしていて、私も身の危険を感じています。みんな外国に行く機会に目を向けています」

彼自身はどうかと尋ねると、「考えたことはあります」と苦笑いを浮かべた。

「でも今はチャンスがありません。川で死ぬリスクがあります」

北東部ハルキウのベッドタウン、サルティフカを訪ねると、新たな破壊の傷痕があった。

 集合住宅の8階から1階までの二列分の壁がほぼ崩れ、本棚やソファ、衣類など室内がむき出しになっている。1月23日のミサイルによる一斉攻撃で壊された226棟の一つだった。

「もう慣れてしまって、驚くこともなくなりました」

 近くに住むデザイナー、イブゲニー・スニッツアさん(24)は表情を変えずに言った。徴兵年齢が近づいていることを聞くと、銃を持つのではなく、自分にできる形で貢献したいと訴えた。

「私には人を殺せないので兵士にはなれません。でも軍を支えることなら何でもします。自分にとって何が一番大切かは、良心に照らしてそれぞれの人が決めることだと思います」

 ロシアとの国境まで約30キロにある北部スームィは数日おきに着弾があり、死傷者も出ていた。人通りがまばらな繁華街のカフェバーでバーテンダーをしているダニール・バブセンコさん(19)は、「兵士が来ると、通りから男性の姿だけが消えるんです」と言った。

「若い男性の多くは動員を恐れて家に閉じこもったり、田舎に移り住んだりしています」

戦争が長引けば、バブセンコさんもいずれ徴兵年齢を迎える。

「僕は大学生になるつもりです。専門的に学ぶためでもありますが、身の安全も理由です。その後は体育教師になります。教師は徴兵されないので、いま多くの人たちが考えているんですよ」

https://www.fsight.jp/articles/-/50574