
シャイロックは、確かに好人物ではない。金や契約に五月蠅く、キリスト教徒に対して偏見に基づく対応をする様子は差別的で、恐らく誰もが好感を持てない人物である。
一方で、ヴェニスの商人であるアントーニオもまた、後者については然程違いはない。アントーニオもユダヤ人に対して偏見に基づく対応をする差別的な人物である。
作中では誰もがアントーニオを褒め讃えるが、客観的に考えてアントーニオは好人物と言い難い。
シャイロックとアントーニオとの対比において、利息にまつわる話が書かれているものの、商人或いは貸金業者として利息を取るのは実に正しい有り様であり、
それを以てシャイロックを悪人のように扱うのは、どこか稚児じみており、やはり偏見に基づく差別的な考え方と言わざるを得ない。
利息を取らないアントーニオは、友人や知人、彼を頼る人々にとっては素晴らしい人物のように思えるのだろうが、それは原理原則を捻じ曲げて承認を得ているだけに過ぎず、
商経済というマクロの視点においては、原理原則を捻じ曲げ多数の人間に不利益をもたらす悪人以外の何物でもない。
「ヴェニスの商人」は、アントーニオ等の反ユダヤ側を煌びやかかつ正義に見せるように描き出されているだけであり、客観的に事象を捉えながら読めば、
反ユダヤを前面に押し出しているだけの差別的な物語となっている。何せ、シャイロックがやったことと言えば、不親切と悪態を並べた程度である。
それでいてシャイロックは、財を奪われ、尊厳を踏み躙られているのだ。それでシャイロックに悲劇さがないとするのは無理がある。
徹頭徹尾シャイロックは被害者であり、アントーニオ等はシャイロックを差別で以て裁き、彼の財を奪い取った悪人でしかない。
https://note.com/value_jinja/n/ndde8943cc12a