欧州各国は第2次世界戦後の復興期、労働力の確保を目指し、多くの移民労働者を受け入れた。
英国などは、移民の出身国の文化や習慣をそのまま認める「多文化主義」を採用。欧州の基本的な価値観を受け入れるよう求めるフランスなどの「同化主義」政策と対比された。
ただ、近年は社会の一体性が保たれないとして「多文化主義」を見直す国が相次いでいる。
多くの国は、緩やかなフランス型モデルを採用し、社会への移民の「統合」を目指すようになった。「多文化主義」本家の英国も、ここ20年ほどの間に、「統合」を主眼に置く方針に徐々に転換した。
その中で、移民とその子孫が人口の25〜30%を占めるスウェーデンは、依然として「多文化共生政策」を掲げている。
マルメ大学移民政策研究所のピーター・ベヴェランダー所長(57)は「移民の文化継承、母語教育政策を進めるとともに、彼らを社会に適応させ、仕事や住む家を見つけ、スウェーデン人と交流できるよう促している」と説明する。

しかし、「多文化主義」の限界を指摘する声は少なくない。
南部の工業都市マルメの中心部ローゼンゴード地区は、行き交う女性のほとんどがベールをかぶり、香辛料の芳しさが漂う移民の街だ。
ここに住む数千人のソマリア系移民は、伝統的な「氏族社会」の中で生きているという。
スウェーデンをはじめ北欧諸国では一般的に、国家と市民との相互信頼度が高いといわれる。
国家の方針に市民は従い、法律を守り、高額の税金を払う。国家側は市民の医療や教育、インフラ整備に責任を持つ。
しかし、ソマリアでは、そうはいかない。内戦状態が続くこの国では、そもそも国家が機能を失っている。
そこに暮らす人々にとって、国家の代わりを担うのが「氏族」。氏族社会内部の出来事は、内部の話し合いで解決される。

この発想がそのままスウェーデンに持ち込まれているという。
例えば、移民同士の殺人事件が起きれば、スウェーデンの司法制度でなく、長老の裁定で加害者の家族が被害者側に賠償金を支払う。
現地で移民支援の活動を続ける元ジャーナリストのペール・ブリンケモさん(60)は、長老らと密接な協力関係を結ぶ一方で、スウェーデン社会とソマリア系社会との間に越えがたい溝があるとも感じているという。
「スウェーデンの法理念から離れた制度がパラレルに存在している。司法当局にとっては衝撃的な事実で、文化の衝突とも言える状態だ」


「みんなの文化を尊重」かえって溝広げた? 「多文化主義」問い直すヨーロッパ
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