政府や産業界が「数学」に力を入れ始めた。デジタル化が進む中、数学の知識や思考法が、AI(人工知能)、ビッグデータなど、これからのビジネスや生活に不可欠になっているからだ。グーグル、アップルなどの「GAFA」と呼ばれる大手IT企業を生み出した米国では、すでに10年ほど前から人気職業ランキングの上位を「数学者」「データサイエンティスト」などの数学関連が占める。数学ができれば、つぶしが利く時代の到来。日本も対応を迫られている。

(中略)

経産省が「もっと数学を!」と言いたくなるほど、日本のデジタル力は振るわない。コロナ禍で「デジタル敗戦」と呼ばれ、世界との競争力も低下の一途をたどっている。

今年9月にスイスのビジネススクール「IMD」が公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」によれば、日本の総合順位は28位で、18年以降、右肩下がりが続いている。1位は米国だが、日本は韓国(12位)、中国(15位)、マレーシア(27位)などよりも低い。

実は、日本の子供の数学力は高い。15歳を対象にしたOECD(経済協力開発機構)の国際的な学習到達度調査「PISA」の2018年版では、日本の「数学リテラシー」は世界トップレベルで、OECD加盟国中1位だ。前回の2015年版調査でも同様の結果になっている。

世界の高校生が数学を解く能力を競う「国際数学オリンピック」でも、日本はかなりの数のメダルを獲得してきた。107の国・地域が参加した2021年の国別順位は25位だったが、2009年には2位になった。

だが、子供時代の数学力がデジタル力へと結びついていない。数学ができる成績の良い子供たちは、医学部へ進むことが多い。親も自分の子供が数学など理数系が得意なら、医学部進学を勧める。数学を学んでも将来どういう就職先があるかはっきりしないからだ。そこからまず改善していく必要がある。

さらに、長年続いてきた日本の組織文化の影響も大きい。

戦後、日本は「文高理低」とでも言えそうな組織文化をはぐくんできた。法学部、経済学部など文系出身者は、会社でも霞が関の官庁でも出世していくが、理系出身者はそうではなかった。

「理系は専門知識があり論理的だが、社会性が不足している」とか、「文系は柔軟で付き合いやすく、マネジメントができる」などといった、高度成長期や年功序列時代の価値観や固定観念が今も残る。

(中略)

「下手に理系に進むと損をする」――。長年かけて培われたこうした考えを拭い去らないと、理系に進学しようという人は増えないし、大学も受け入れを狭めていくという負のスパイラルに陥る。これでは数学力は育たない。

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