イスタンブール(CNN) アブデル・カフィ・ハムドさん(36)はウクライナのことを考えずにはいられない。シリア人のハムドさんは日々ニュースを追い、団結のメッセージをツイートし、5歳の娘にウクライナ国旗の描き方を教えながら過ごしている。戦争、死、苦悩をとらえた想像を絶する光景が世界中に発信される中、ウクライナ人が味わっている状況を理解できる人はほぼ皆無だとハムドさんは言う。

ハムドさんはCNNに「誰もウクライナの人たちの気持ちを理解できない。世界で彼らのことをよく理解できるのはシリア人しかいません」と語った。

ウクライナとロシアの戦争を見つめる英語教師のハムドさんの脳裏に、人生で最も暗い記憶、2016年にアレッポの街が包囲された時のことがよみがえる。

今年2月末、ロシアはウクライナに侵攻した。戦争により子ども数十人を含む数百人の民間人の命が奪われ、300万人以上の人々が祖国を追われた。

だがウクライナでの戦争の6年前、ロシアは数千キロ離れたシリアでも容赦ない軍事作戦を展開した。アサド政権を支えるためだ。この時の戦争の被害者によれば、テレビの画面に映しだされるウクライナの惨状は自分たちの戦争と恐ろしいほど似通っているという。

ロシアの後ろ盾で、アサド大統領率いる政権と同盟国はアレッポ東部を戦闘地域にした。16年12月、包囲された30万人の住人は食糧供給手段を断たれ、爆撃により降伏を強いられた。こうした戦術は戦争の間ずっと国内のあちこちで展開された。化学兵器によるとみられる攻撃もそのひとつだが、シリアはこれを否定している。砲撃を逃れた人々は、跡形もなくなった家を後にする他なかった。

「彼らは私たちを破壊しました。精神状態はずたずたです」とハムドさん。ハムドさんは街を出る数日前に病院へ向かった時のことを振り返った。気づけば死体の山を越えて、友人の元へ向かっていた。

「ウクライナもいずれそうなるでしょう」とハムドさんは言う。「今ウクライナで起きていることはほんの始まりにすぎません」

シリア人の中には、自分たちの国が不吉な出来事を警告していたのに、世界はあえて目を背けたのだと言う者もいる。シリアはロシア軍兵器の実験場で、近隣地域に対するロシアの野望の前触れだった。

ハムドさんをはじめとするアレッポ住人の仲間は包囲下での生活を事細かに記録し、毎日ソーシャルメディアに動画を投稿して、国際社会に救済を訴えた。彼らの話では、呼びかけには何の返答もなかったという。

「私がとても気がかりなのは、世界が(ウクライナで)同じ過ちを繰り返していることです」。感極まるハムドさんはCNNにこう語った。ウクライナでのロシアの戦争行為に対する非難は、あたかも「これが(ロシアによる)初めての戦争で、初めての殺戮(さつりく)行為」であるかのようだと言う。

「なぜ人々は10年間も目を背けてきたのか、私には想像すらできません」(ハムドさん)

オバマ米政権は13年、自国民に化学兵器を使用したアサド政権が「越えてはならない一線」を踏み越えたと発言した。だが西欧諸国は、軍事介入はしないとの決定を下した。

https://www.cnn.co.jp/amp/article/35185151.html