皆様こんにちは。このシリーズでは、イランで実際に使われているペルシャ語の生きたことわざや慣用句、言い回しなどを毎回1つずつご紹介してまいります。

今回ご紹介するのは、「雄牛だと言っているのに、相手は乳を搾れと言う」です。

ペルシャ語での読み方は、Har che mi-guyam nar ast, mi-guyad beduushとなります。

このことわざは、相手に実際には不可能なことや無理難題、自らの強引な要求を押し付けることを意味しています。皆様も、文字通りの意味からなんとなく本来の意味をご想像できた方もいらっしゃるかもしれませんね。まさに、読んで字のごとく、乳汁が出るのは牝牛であり、雄牛からは乳汁を搾れないことから来ています。

また、このことわざは18世紀前半にごく短い期間ながらイランを支配したアフシャール朝の初代君主ナーディル・シャーが遭遇した実際の出来事に由来しています。好戦的だったナーディルシャーは在任中に、近隣諸国など各地に戦争をしかけ、自らの支配下に治めていました。

しかし、あるとき当時のイラン国内の反乱を討伐しに遠征した際、敵方の勢力の待ち伏せに遭遇してあえなく敗北し、命からがら辺鄙な片田舎に落ち延びます。彼は食べるものも全くない中である村人の家を見つけ、そこに身を寄せます。

その時、その家の外を牛飼いが通りかかり、連れていた雄牛が鳴き声をたて、ナーディルシャーはこれを聞きつけ、泊めてくれた家の住人に、あの牛の牛乳を搾って持ってきて欲しいと頼みます。そこで、家の住人は「あれは雄牛です。乳は搾れません」と説明しますが、ナーディルシャーは「いいから乳を搾って持って来い」と固執したことから、このことわざが生まれたということです。

日本語でいうなら、まさに横車を押すような要求ということになるのでしょうか。ですが、いかに一国一城の主といえど、雄牛からは乳汁は搾れませんね。以上、今回はイランの歴史にまつわることわざをご紹介しました。それではまた。

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