DJ KRUSH~世界のDJの頂点に立つ~ | J SELECT | JAPAN SELECT
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(前略
「今では、どこでも音楽をダウンロードすることができる」
DJ KRUSHは、ため息混じりに言った。
「ひどいことに、何曲もの楽曲で編成されているアルバムから、一曲だけをダウンロードすることすらできる。一つのファイルだと、そのアルバムの価値を正当に評価できなくなる恐れがある。僕たちがアルバムを制作する時、CDジャケットやレコードのビニールジャケットも手に触れることのできる作品の一つの形態として、大切に制作するんだ。
楽曲のファイルをダウンロードする時、もちろんジャケットもダウンロードすることができる。でも、それはとても小さく、手に持つこともできない。悲しい気持ちになるよ」
DJ KRUSHは、一晩中スタジオにこもり、音の質を少しでも高めるため、レコーディングを繰り返すという。ほとんどの楽曲は、コンピューターで制御されたスピーカーから音が出される。このことも、憂鬱な気分にさせることだと、彼は語る。
「それでは、音楽の本物の音質を聴くことはできない。日本では、携帯で音楽を聴く人がいるけれど、あんな安っぽい音で聴いているのは、本当にかわいそうなことだと思う。アナログ特有の温かい音があるし、それは、デジタルでは再現できないことだと思うんだよね。まったく次元の異なることだと思う。音楽を作る立場から言わせてもらうと、ちょっと悲しいことだよね。でも、便利な側面もあるから、とても複雑な気分だよ」
DJ KRUSHと話をしていると、とても謙虚な人間であることがわかる。彼は、20年後も、「まだ自分のスタイルを追い求めていると思う」と語った。控え目な態度を持つことで知られる彼は、男らしさを伴うヒップホップの世界においては、対照的な性格と言えるかも知れない。
DJ KRUSHは、音楽をとても尊敬している。「音楽は、とてつもなく大きな存在だけど、きっと死ぬまでその本質を掴み取ることはできないんだろうね。自分から音楽を取り去ったら、僕は空っぽの人間になってしまう。ただのオヤジだよ」
若い頃、暴力団員だったDJ KRUSHは、音楽との出会いによって救われたに違いない。彼にとって、それは本当に音楽かすべてを失うことだったのだ。過去について尋ねてみると、彼はげらげらと高笑いした。
「おお!マジ!この話題について切り出されると思ったよ。ひどい暴漢だったけど、それは、若い頃の話ね。当時は、何がしたいのかわからず、いつも悪さばかりしてた。きっと、そういう形で生きていることを主張したかったんだろうね」
しかし、悪いことばかりだったのだろうか。ヤクザとしての生活は、今の人生に良い影響を及ぼしてはいないのだろうか。
「あの世界での敬語やヒエラルキーは、とても偏っていて、年齢は全く関係ない。それに、あの世界では、勝ち残って上に這い上がろうという意識がものすごくある。だから、ヤクザの世界に溺れてはいたけれど、自分にしかできないことをしていこうと気付かせてくれたのは、良いことだったかも知れない。何事にも挑戦して、上を目指す。それ以外のことは、悪いことばかりの世界だったよ」
DJ KRUSHは、笑いながら答えた。
(後略