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米ガソリン車規制、日本勢に「26年の崖」 HV岐路に

米カリフォルニア州の環境当局は25日、2026〜35年にかけてガソリン車の販売を段階的に禁止する新たな規制案を決定した。規制案ではまず、26年に各メーカーは新車販売台数の35%を電気自動車(EV)などにする必要がある。ハイブリッド車(HV)を主力とするトヨタ自動車をはじめ、日本車メーカーは規制面の「崖」に直面することになる。
「内容は厳しいが、2035年にガソリン車をゼロにする方針は以前から明らかにされていた。対応できるように商品計画を練っている」。ある日本車メーカーの幹部は全米の新車市場の12%を占めるカリフォルニア州の大気資源局(CARB)が25日に可決した新たなガソリン車規制案を受け入れざるを得ないと話す。
26年にZEV比率35%
規制案は、各自動車メーカーに州内の販売台数の一定割合を環境負荷の少ないゼロエミッション車(ZEV)にするよう義務付けるものだ。規制値は26年式の35%から始まり、30年式は68%、35年式については100%に達する。車メーカーは段階的にガソリン車の販売比率を引き下げなければならない。
規制案ではEVのほか、燃料電池車(FCV)や電池だけで約80キロメートル以上走れるプラグインハイブリッド車(PHV)がZEVとして認められた。日本車メーカーが得意とするHVは含まれず、35年には州内での新車販売が禁止されることになる。
CARBは原則として排ガスを出さない車の普及を目指しており、PHVを算入する場合でも規制案が要求するZEV販売台数の20%以下に抑えるよう条件を付けた。規制値を満たさなかった車メーカーには未達成分について1台あたり最大2万ドル(約270万円)の罰金を科すという。
トヨタ車のZEV比率は4%
カリフォルニア州新車ディーラー協会(CNCDA)によると22年1〜6月に州内で販売された新車は約85万3000台だった。新車販売全体に占めるEVとPHVの比率は合計17.9%だったが、これはEV専業の米テスラの成長による押し上げ効果が大きい。
米S&Pグローバルによると22年1〜6月のカリフォルニア州内の販売台数に占めるZEVの比率はトヨタ車の場合で約4%、ホンダ車はわずか0.3%にとどまる。EV「リーフ」の販売に力を入れる日産車の場合でもZEV比率は6%台と、約4年後の26年式の規制値である35%には遠く及ばない。
ガソリン車やHVを含めた新車販売台数に目を転じると現時点ではトヨタが断トツの首位。ホンダなども上位に入り日本車が優勢だ。一方、ZEVに絞るとテスラが圧倒的なトップとなり、韓国の現代自動車や起亜が上位でトヨタは4位だ。ZEVが新車の前提になると勢力図が塗り替わる可能性がある。
トヨタも手をこまねいているわけではない。米国での具体的な数値は明らかにしていないが30年には世界でEVを350万台販売する計画を打ち出した。米国では30年に高級車「レクサス」を全てEVにする計画を公表している。ただ「フォードのEVの売れ行きは想定以上」(トヨタ幹部)と米国でのEVニーズは加速しているとの認識で品ぞろえの拡充を急ぐ。
米国事業を収益源とするマツダは21年10月からEV「MX-30」をカリフォルニア州限定で販売しているが、22年1〜7月の販売台数は324台だった。同社幹部も「米国は州によって状況が異なり、環境変化がはやい」と対応を急ぐ構えだ。
規制契機にホンダなど躍進
カリフォルニア州は1960年代から米国の環境規制の先頭に立ち、連邦政府のルールづくりにも影響を与えてきた。70年代には達成不可能といわれた米国の環境規制「マスキー法」をホンダがいち早くクリアし、日本車メーカーが躍進する契機になった。同州はいまも連邦政府とは異なる独自の環境規制を定めることが認められている。
90年代には車メーカーに販売台数の一定割合をZEVとするよう義務付ける規制を導入した。規制値を満たせない車メーカーが超過して達成した他社からクレジット(排出枠)を購入できる仕組みなどを整え、テスラの成長を後押しした。
欧州連合(EU)が35年までに域内におけるガソリン車の新車販売を原則禁止する方針を打ち出すなど、輸送分野における環境規制は世界的に強まっている。米国でも運輸省が4月、26年に乗用車などの平均燃費を21年比で3割超改善するよう求める燃費規制の新基準を公表した。
日本では政府が35年までに乗用車の新車販売を全て電動車とする目標を掲げる。ただHVやEVの内訳は定めていない。東京都は30年までに都内の新車販売の半分をZEVにする目標を設け対応策を検討している。いずれも努力目標にとどまり、カリフォルニア州のような罰則はない。