人生相談
一生独りぼっちかも=回答者・高橋源一郎

 人と仲良くなることができず、親友も恋人もおらず寂しいです。
学校や会社で初対面ならば人と話すし、連絡先も交換してもらえますがそれで終わりです。
私はある意味、教科書をなぞっただけの人間で、人付き合いや経験の差がどうしても埋まらない気もしています。
一生独りぼっちではないかと心配です。(24歳・男性)

 大学をやめ肉体労働に従事するようになった20歳の頃、親や友人たちとの連絡を絶ち、その数年後、妻子と別れました。
そして、わたしは完全に「独り」になりました。会える友人はいましたが、会いたくありませんでした。
本当は誰ともわかりあえないと気づいたからです。現場で意味もない世間話をするのは楽でした。
付き合う人はいませんでした。仕事をさぼり喫茶店に入って本を読むことだけが楽しみでした。
いま思えば、あの頃ほど幸せな時間はなかったのかもしれません。

 「独り」で生き「独り」で死んでゆくのだ。そう思っていました。けれども、つらくはありませんでした。
「本」の中には、そのことをよく知っている人たちがいました。
彼らもずっと「独り」で、遠くにいるわたしに向かって手を振っているように思えたのです。

 時がたち、親友も恋人もできました。けれども、心から安堵(あんど)できるのは、彼らと別れて「独り」になるときでした。
「教科書をなぞっただけの人間」とわかったなら、あなたも「独り」の資格がありますね。
人間は「寂しい」ものです。でも、それだけが人を人たらしめるものなのです。あなたはその真実に気づいた。
読みましょう、何かを。見つめましょう、美しいものを。気づきませんか、世界がこんなにも豊かなことを。
親友や恋人がいても、実はみんな「寂しい」のですよ。(作家)

https://mainichi.jp/articles/20230806/ddm/013/070/010000c