急増する配達員 欧米では守る動き 日本政府は企業利益を優先


宅配荷物を運ぶ個人事業主のドライバーが、コロナ禍での失業を回避する「受け皿」になっているのは世界的な傾向だ。欧米では、働く人の安全網を構築する動きが広がり始めているが、日本では議論が進んでいない。
「これでは家族を持つのも無理」。3年前から東京都内でアマゾンの荷物を運ぶ40代男性は言う。アマゾンが荷物配送を委託する大手運送会社の「下請けの下請け」が男性の立場だ。
 一日の荷物は「コロナ前」の110個が170個に増加。5分に1個のペースで毎日12時間以上、配達するが、それでも日当1万5000円はコロナ前と同額。男性は「月収30万円。車の維持費やガソリン代を引くと手取りは20万円を切る」と打ち明けた。

◆「契約打ち切り恐れ、報酬の交渉できない」
 ドライバーらが加入する労働組合「建交労軽貨物ユニオン」の高橋英晴代表は「個人事業主らは契約打ち切りを恐れ、報酬増を交渉できない」と説明する。アンケートでも、多くの人が一方的な運賃減額などを強いられたと回答した。
料理宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員や自宅で内職をする人など、個人事業主の立場でインターネットから単発の仕事を請け負う働き手は「ギグワーカー」と呼ばれ、海外でも急増。米国では労働力の34%(兼業・副業も含む)を占め、欧州連合(EU)でも11%に達する。

 不安定な労働環境は社会問題化。スペインの最高裁判所はウーバーイーツの配達員を「労働者」と認定し、労働法の保護を受けられるようにした。EUの委員会も、年内に失業給付など労働環境の改善策をまとめる見通しだ。米国でも政府が労働法の適用の可否について近く検討を始める。
 一部の働き手は「複数の企業の仕事を請け負うことが難しくなる」と主張し「従業員化」に反対するが、欧米では、企業がギグワーカーの労働力を利用して利益を上げる以上、社会保障費などで企業側に一定の負担を求め、労働法で保護する方向で議論が進む。

◆労災保険は「自分持ち」
 対照的に日本では、追加的な保護策の議論は進んでいない。政府は「世界で企業が一番活動しやすい国」を掲げ「経済産業省主導で政策が決まってきた」(法政大の沼田雅之教授)ためだ。国は宅配業で働く人などに労災保険への特別加入を認めるが、保険料は、企業負担の一般的な労災保険と異なり、全て「自分持ち」だ。
 このままなら近年増加した非正規労働者の一部に加え、個人事業主の増加で「不安定労働者」の層が拡大する懸念がある。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/144073