大学は約1年半休学。いつの間にか、同期の学生は卒業し、社会人になっていた。単位を落として留年した同期も大学5年目を終えていなくなり、
自分がただ取り残されていくことに気付いた白水さんは絶望の淵に立たされた。
「延命治療のように休学期間を延ばしても、何も残りませんでした。ゲームをやり出してから何も変わらなかった。もう生きていけないと思い、うつ状態になったんです」
休むことなく行き続けたバイトも休みがちになり、無断欠勤するようになった。家族に他県にある病院への入院をすすめられ、「もう、ここまで来たら」と受け入れた。

白水さんにとって、入院は「引き出しを増やしてもらう大事な経験」となった。
「どういう状況でゲームをしやすいのか、イライラするのか、メンタルが沈みがちになるのかなどを教えてもらいました。
入院している人だけではなく、通院している人たちとも一緒に治療を受けたことも良かったと思います。回復が進んでいる同年代の人たちの中には、大学に復学し、単位を取り直している人もいました」
「治らない病気なのでは」と思っていた白水さんにとって、回復に向かっている仲間は「希望」となった。ただ、同じ大学への復学は難しいと考え、入院期間中に中途退学し、フリーターになった。
退院後の白水さんを悩ませたのは、仲間とのつながりや通院先だ。住んでいる地域にはネット・ゲーム依存の自助グループはなく、以前通院していた病院は半年先まで予約が埋まっている状況だった。
そんな中、入院していた病院からボランティアの誘いがあった。

「ネット依存状態あるいは依存気味の中高生を対象としたキャンプのボランティアでした。同時期に入院していた同年代の仲間もボランティアや参加者として集まり、
キャンプに参加したことで仲間の輪が広がったんです。日常的に通えるようなところで、まわりにこんな集まりがあればいいなと思いました」
知り合いに病院を教えてもらい、毎週通える通院先はみつかった。ところが、ようやく持ち直し始めたころに、新型コロナウイルスの感染が拡大。
緊急事態宣言などにより、2020年はボランティアをしたキャンプが中止になったという知らせを受けた。
「知らせを聞いて、ボランティア仲間に久しぶりにオンラインで再会したんです。仲間も居場所の必要性を感じていて、オンラインで自助グループを作ろうという話になりました」
こうして、2020年に仲間とネット・ゲーム依存症の自助グループ「FiSH(Field of Sharing Hearts)」を立ち上げ、約1年以上になる。
参加者の多くは、10代・20代の学生や社会人だ。同じ年にASK認定依存症予防教育アドバイザーにも認定され、啓発のための講演活動もおこなうようになった。
「運営側としての責任を感じるようになったのもありますが、ゲームに依存していたときにもう戻りたくないと思ったんです。いろいろなつながりに恵まれたことで、
ゲームでまた独りになって、つながりを失うことになりたくないとも思うようになりました。ネットや動画はまだまだ見ていますが、ゲームはやらなくなって500日以上が経ちました」

2021年4月からは建築関連の専門学校に進学し、木造大工を目指している白水さん。学生時代を取り戻すべく、勉強に励む毎日を送っている。

白水さんは、タバコやアルコールと同じように、ゲームを「使う側」や保護者も気をつける必要があると指摘する。
「最近のゲームは昔と違って『プレイしたければ、無制限にできるスタイル』のものが少なくなく、依存させるようにできています。
そのため、子どももやめられず、無制限にやりたくなるのです。子どもたちには保護者が『気をつけよう』と声がけし、保護者もゲームについて知ることが必要だと思います」
ゲーム依存を予防するため、保護者は子どもにどう接すればよいのか。白水さんは、頭ごなしに叱ったり、ゲームを取り上げたりするなど、子どもを否定するのではなく、家族全体で話し合うことを提案する。
「子どもと一緒にゲームをすることもよい方法の一つだと思います。家族でコミュニケーションを取ることができますし、子どもの立場を理解できるためです。
もしかしたら、家族もゲームをやりすぎてしまうことがあるかもしれません。その場合は、やめられないことや課金したくなる子どもの気持ちを理解でき、問題意識が芽生えると思います。
家族みんなでルールをつくることもよいでしょう。子どもやゲームだけを悪者にするのではなく、どうしたらゲームをやり過ぎずに楽しむよい方法があるかを一緒にみつけていくことが大事だと思います」

https://news.yahoo.co.jp/articles/4487f5f71e65ac2700ac5897a65746df31945aca