岸田文雄政権が、米国と中国の双方にいい顔をする「二股外交」を展開しそうだ。
林芳正外相は中国からの訪問要請を前向きに検討する姿勢を示したが、自民党内からは早くも異論が出ている。
この問題は、岸田政権を揺るがす「時限爆弾」になりそうだ。

林外相は11月21日、出演した民放テレビ番組で、18日に電話会談した中国の王毅外相から、訪中を打診されたことを明らかにした
(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/72466.html)。
外務省は会談後の発表で打診の事実を伏せていたが(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000637.html)、大臣が自ら公表した。

公式訪問は、招いた側が招かれた側の同意か感触を得たうえで発表するのが、普通の外交儀礼だ。招いた側が友好姿勢を示す一方、応じるかどうかの選択を相手に委ねるためだ。
ところが、今回は招かれた側の日本の大臣が3日遅れで、一方的にテレビで公表した。これだけでも、十分に異例である。

事務方が慎重だったにもかかわらず、なぜ林大臣は公表したのか。

林氏は日中友好議員連盟の会長を務めており、自民党親中派の代表格だ。外相就任に当たって、会長職を辞任したが、それで政治姿勢が変わるはずもない。
林氏には「米中の仲介役」「橋渡し」をしよう、という意図があったのではないか。
そんな思惑は「米中両方と話ができるのが日本の強み」という発言ににじみ出ている。そうだとしたら、訪中前から、中国の掌中に乗ったも同然だ。
中国は日米豪インド4カ国の協力枠組みである「クアッド(QUAD)」や、米英豪の軍事同盟である「オーカス(AUKUS)」に神経を尖らせていた。
そんな中国包囲網で、もっとも中国に近い日本が中核になるのを阻止するのは、中国の最重要課題である。
「日米同盟の分断」こそが、彼らの戦略目標なのだ。一方に肩入れすれば、仲介者の役割は果たせない。
日本が仲介者になるとは、米中双方と等距離を置くことにほかならない。つまり、仲介者と言った時点で、日米同盟は分断されてしまう。中国の思惑そのものだ。
林氏は「政治家として、名を上げる絶好のチャンス」とみたかもしれない。緊張関係が高まる米中の間に立って、緊張緩和のきっかけがつかめれば、大きな功績になる。
そうだとしたら、林氏は根本的に勘違いしている。

そもそも、日本は米国の同盟国だ。日本が米中と等距離を置いて、仲介者になれるわけがない。そんな思惑をにじませたからには、米国は当然、
警戒する。仲介者どころか、二股外交の先駆者である韓国のように、米国と中国の双方から信頼を失うだろう。

「米中双方と話ができる」などと気負ってみても、米中両国はすでに、ジョー・バイデン大統領と習近平総書記のトップ同士が16日、オンライン上とはいえ、直接、議論を交わしている。
そこに日本が割って入ろうとしても「余計なお世話」になるのがオチだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a851a669d6a1fdfcbaf774af8efc739f9cc1471f