岸田文雄政権は「賃上げ政策」を「成長と分配の好循環」実現で前面に置いているが、経済全体の賃金が上昇するためには、賃金が高い産業の成長率が高くなければならない。

 ただし高賃金が参入規制で実現している場合には、経済全体の賃金引き上げに寄与しない。また、成長率が高くても賃金が低ければ、やはり経済全体の賃金引き上げに寄与しない。

 アメリカでは賃金も成長率も高い産業が経済を牽引するが、日本の高賃金産業は参入規制に依存している場合が多い。

 賃金水準はその国の経済がどのような産業、企業で牽引されているかで決まる面がある。岸田賃上げ政策にはこの視点が欠けている。

アメリカの産業構造の特徴は成長牽引型の産業があることだ。

 年間賃金が10万ドル以上、成長率10%以上の両方の条件を満たすのは、つぎの業種だ。

 パイプライン輸送、出版(ソフトウェアを含む)、証券・商品投資、保険、コンピュータデザインと関連サービス、専門的科学技術的サービス、経営。

 これらの業種の雇用者は1539万人で、製造業(1184万人)より多く、全雇用者の11.6%を占める。これらを「高度サービス産業」と呼ぶことができる(注)。

 この分野が存在することが、アメリカの賃金が国全体として上昇する大きな要因になっている。

日本の場合に、上で定義した意味での成長牽引型の条件を満たす産業として、情報通信業とガス・熱供給・水道業がある(図表2参照)。後者の成長率が高いのは電力自由化の影響と考えられる。

ただし、情報通信業の比率は小さい。2021年度の総雇用者に占める比率は労働力調査統計で見ると3.9%でしかない(ガス・熱供給・水道業は、別掲されていないが、法人企業統計調査によれば、その比率は極めて低い)。

 経済が成長するためには、成長牽引型産業の比率が高くなければならない。日本の賃金が上昇しない基本的な原因はここにある。

以下略

"銀行や電力「低成長・独占」産業ばかり高賃金な日本の“貧困” | 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る | ダイヤモンド・オンライン" https://diamond.jp/articles/-/289167