「この世で生きるには、私は繊細すぎるんだと思います」

こう話すリーナは、人混みや明るい光が我慢できない。

一方、メリッサの場合、まず夫に映画を観てもらい、暴力や流血など怖い場面が彼女の許容範囲かどうかを判断してもらう。娘や息子が孫を連れてやってくると、メリッサは別室に閉じこもる。おチビさんたちの「大きな笑い声や言い合い、汗とか体臭とか、そういうのに圧倒されて辟易してしまうから」だ。

ルーシアいわく「着ている服の繊維一本一本が感じられ」、ムズムズ感がすごくていてもたってもいられないときもあるそうだ。ときには「どうしようもなくムズムズして」、パートナーとのセックスを中断しなければならないという。

リーナとメリッサ、そしてルーシアは、自分たちが「ハイリー・センシティブ・パーソン / HSP(非常に敏感・繊細な人)」だと自認している。アメリカの心理学者エレイン・アーロンによれば、多くて2割の人がこれに該当するという。アーロンは90年代前半からこの研究を始め、『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』を1996年に出版し、世間に大きな影響を与えた。

「彼らは入ってきた情報を一般的な人に比べてもっと徹底して、丹念に処理します」

こう説明するのは、臨床心理学者のジュヌビエーブ・ヴァン・ロブだ。

「彼らは、さまざまな刺激要因から非常にたくさんの情報を取り入れる傾向があります。そのうえ、センシティブでない人と比べると、もっと徹底して情報処理もします。あまりにもたくさんのことを一度に取り入れようとするので、過度に刺激され、過度に興奮して、圧倒されてしまうわけです」

どこまで「繊細」なのか?

本紙「ガーディアン」が、HSPならではの体験談をお寄せくださいと読者に募ったところ、300人以上から回答があった。回答者たちは、他人の感情に注意を払いすぎて消耗するとか、仕切りのないオフィスで働いたりスーパーに買い物に行ったりするだけで疲れてしまうといった体験を教えてくれた。

感情に訴えるタイプの広告に泣いてしまう、政治討論会のようなイベントでうろたえてしまう、もしくは非常に感動する、という報告も珍しくはなかった。

「世の中を遮断するために」ヘッドフォンをしているという人や、意地悪な言葉を目にしてその日を、あるいはその週を、台無しにしないようにソーシャルメディアを避けているという人たちもいた。仕事で批判されるとその後何年も心に残ることがあるとか、他人の香水が拷問のように感じる、人づきあいが難しい、というケースもある。

「なぜ朝のテレビの音や光で顔面パンチをくらったように感じるのか、なぜお気に入りのチクチクする毛布の手触りで泣きたくなるのか。そうしたことを『この人の頭は、大丈夫か?』と思われずに説明するのは難しいのです」と書いた女性もいた。

子供の頃に「たくましく」ならなければ、と諭された人もいれば、自分はどこか変だと感じながら何十年も生きてきたという人もいた。


結果として、HSPの多くが自尊心が低いのだと、前出のヴァン・ロブは言う。

「学校でいじめにあっていたと思われるケースも多いです。この特質を社会は欠点とみなしがちですし、『弱い』とか『感情的になりやすい』というレッテルを貼られることもあります。

HSPの人たちはよく孤独感を味わったり、誤解されている、自分は普通ではない、といった思いを抱えていたりします。彼らはこの世が過酷すぎる、騒がしすぎると感じているのです。なかなか自己受容ができなかったり、他人から言われることが原因で自分の天賦の才能を評価しにくくなってしまうというのも不思議ではありません」

https://courrier.jp/cj/270042/