歴史修正主義を扇動した「論破」文化 感情に訴える言葉の危険性

相手を言い負かした方が正しいと思わせる「論破」という言葉がいまネット上にあふれています。
社会学者の倉橋耕平さんは、この言葉の持つ効果を巧みに利用したのが「歴史修正主義だ」と指摘しています。
1980年代末に生まれた「論破カルチャー」が社会にもたらす負の影響について、聞きました。

SNSなどで顕著に見られる「論破」のカルチャーは、ネットによって新たに生まれたものではありません。

別次元のものを同じ土俵で議論

その兆しは1980年代末から始まった討論系のテレビ番組に見られます。討論番組では、専門家ではないコメンテーターなどが議論に参加します。
視聴者は、出演者が政治家や専門家をたじろがせる様子を面白がりました。同じ時期、ディベートや説得力を重視した自己啓発本がブームになりました。

こうした流れの中で「歴史をディベートする」ことがはやり、歴史修正主義運動の潮流となっていったのです。

そもそも歴史とは、史料をもとに専門家が論じるものです。
ところが、ディベートの土俵に載ると、研究者が歯牙(しが)にもかけない歴史観が、対抗する言説であるかのように格上げされます。
長年かけて培った先行研究の蓄積がゼロにされてしまうのです。日本でも、海外でも、歴史を否定したがる人たちが議論を好む理由は、ここにあります。

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