ホラーがヒットしないのは「経済的にしんどいし現実が苦しい」のが原因!?<劇画狼×崇山祟対談>

――今回の対談は「ホラー漫画の楽しみ方」というテーマなのですが、2人はこのジャンルの現状をどのようにご覧になられていますか?

劇画狼:今ホラーの連載で当てようと思ったら、正直、内容はゾンビか巨大生物系のパニックホラーの2択になってしまうような気がします。

でもそれは、僕のようなホラーファンが期待するものとは、必ずしもイコールではない。
「売れてるホラー」というジャンルが、「ホラー」というジャンルとは別にあるような感じ。
それと、単純に「血が出る」「臓物が出る」みたいな、絵が怖かったりグロかったりするものだけが「ホラー漫画」と認識されているような気がします。


劇画狼:でも、ホラー漫画は’90年代末くらいから下火になり、現在に至ります。
やはり、’97年に起こった中学生による連続殺傷事件「酒鬼薔薇事件」こと、神戸連続児童殺傷事件の影響が大きかったと思います。
あれで少年漫画誌での残酷描写が問題視され、首がポンポン飛ぶような描写が一気に減っていった。

崇山:ホラー漫画界の巨匠、御茶漬海苔先生と伊藤潤二先生も、あの事件の影響は大きかったとおっしゃられていました。
あと、日野日出志先生は残酷描写てんこもりのビデオ作品「ギニーピッグ」シリーズに関わられていましたけど、
’89年に幼女連続誘拐殺人事件で逮捕された宮ア勤の部屋にこのビデオがあったことが話題になり、仕事がどーんと減ったとか。
以降、ホラー漫画家は、悲惨な事件があるたびにコンプライアンス問題で仕事が激減する状況に。
しかも今は、残酷描写に限らず、あらゆる側面からコンプライアンスが問題視されるようになったので、過激な表現に関しては一番低調な時期なのかもしれませんね。

劇画狼:あと、’80〜’90年代のホラーが流行ってた頃と比べると、今って生活の余裕が全然ないですよね。
バブル期前後って、ある程度生活が保証されてたからこそ、人が酷い目に遭う不幸な作品を娯楽として楽しむ余裕もあった。
でも今は、経済的にしんどいし、現実が苦しいから、これ以上暗いものを取り込みたくないという人が増えているような気がします。

崇山:僕が集めている、思いつきで作られたような漫画も、言ってしまえば景気が良かったから出版されてたんですよね。
森由岐子先生の血液型シリーズとか、鬼城寺健先生の『呪われたテニスクラブ』とか。
後者なんて「今は軽井沢が流行ってるから、やっぱテニスクラブものだろ」くらいの軽いノリで作られたんだろうな(笑)。
でも、僕はこういう豊かな時代の、作家さんが潤っていた時代の漫画が大好きで、憧れます。
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