「風俗を危険な状態にしているのは、この社会の制度と差別です」−。性風俗などで働く人たちが健康で安全に働けるよう支援する団体「ＳＷＡＳＨ」の要友紀子さんは、犯罪の背景にある複合的な要因を指摘する。
風営法改正で、店舗型の風俗店は新規出店の規制で減少する一方、派遣などの無店舗型が急増している。派遣型は近くに従業員がおらず、犯罪被害に遭うリスクは高くなる。
要さんは「風俗店の実態が見えにくくなっている」とし「それは働き手にとって安全な労働環境が奪われていることを意味する」と危惧する。
複数の派遣型風俗で勤務経験のある大木理子さん（３０）＝仮名＝は「安全対策は業者に任され、国は最低限のルールすら作らない」と嘆く。
中には派遣する女性のために緊急通報用の端末を貸与したり、トラブルに巻き込まれた際に弁護士に相談できる手はずを整えたりしてくれた店もあった。
だが、店の多くは客からの暴力など犯罪行為を訴えても「よくあることだから」「殺されないだけマシだよ」などとまともに取り合ってくれなかったという。
店側の利益ばかりが追求され、働く女性たちの安全はないがしろにされている。「暴行に及んだ客を店が勝手に逃がしたこともあったし、被害直後にもかかわらず次の客の元に向かわされたこともありました」
要さんは、差別意識の根深さも要因の一つに挙げる。「風俗店従業員を見下して、何をしてもいい存在として扱う社会の風潮が犯罪を助長している」
実際、風俗店で働く人が標的となった事件が報じられると、ネット上には「かわいそうだけどしょうがない」「危険料込みの対価でしょう」などの心ない書き込みがあふれる。
働いていること自体が被害に遭っても仕方ない「落ち度」のように扱われるのだ。
要さんには、国が先頭に立って差別の旗振り役をしているように映る。
新型コロナウイルス感染症の拡大で、それは一層あらわになった。対策として支給された持続化給付金や家賃支援給付金の対象から性風俗事業者が除外されたのだ。
国は「性風俗業は本質的に不健全」との理由で支給の対象外にしたと説明する。
要さんは「国が差別を正当化している。これでは風俗に身を置く人たちを踏みつけにしてもいい、何をしてもいい存在だと、国民に誤った意識をまん延させることにつながる」と危ぶむ。
こうした風潮が、当事者の女性たちに差別を無自覚に受け入れさせ、状況の改善や支援を求めようとする発想、行動自体を根底から阻害するとみる。
大木さんは、風俗で働く自分が「ひどい目に遭うのは仕方がない、と思い込んでいた」と明かす。しかし、いまはその言葉に違和感を覚える。
「たしかにリスクはあります。だけど、法律や業界がそのリスクを減らすためにできることはたくさんあるはずです」
踏みつけにされていい人などこの世に存在しない。だから痛切に思う。「命が守られてしかるべき同じ人間なのだ、と」
（加地 紗弥香）
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