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多くの人が知らない、牛乳の「深い闇」…「水より安い」のウラにある残酷な現実

イメージ通りなのだろうか?
牛乳は日常の食生活にとって身近で、なくてはならない存在だろう。それゆえに消費者に向けた広告も盛んだ。

緑豊かな大草原で乳牛がゆったり牧草を食べているシーンは、テレビやネット広告などでよく見られる。とくに人気俳優が大草原で乳牛に囲まれながら牛乳を口にする、大手牛乳メーカーのCMは印象的だ。
しかし、家畜を含めた動物保護活動を行っているアニマルライツセンターの岡田千尋代表は「実際のところ日本ではほとんどが牛舎酪農であり、牛が牧草地を自由に歩くことはない。多くが工場型の酪農で、畜舎内で乳牛を飼っている」と話す。
ならば、牛乳メーカーの牧草地に乳牛が放たれている映像やイラストなどのCMは実際の乳牛の飼育環境と異なるのであろうか。
冒頭で取り上げたCMを流しているA社と、ネット広告のトップ画面にそうした映像を入れているB社に、販売している牛乳は放牧している乳牛から搾ったものなのかを尋ねてみた。
A社は「産地限定の牛乳以外は、製造工場周辺の地域から集めたものが中心で、酪農団体と取引を行っており、個別の酪農家や飼育状況について分かりかねる」ということだった。
B社は「放牧生産者が生産した生乳を使用している商品は『放牧生産者指定牛乳』のみで、その他の商品については一般的な酪農家が生産した生乳を使用している。その他の生産者の乳牛の飼養管理は、各酪農家によって様々で、各酪農家は土地条件に合わせた酪農形態を選んでいる」と回答した。両社とも放牧乳牛の牛乳は一部の商品のみのようだ。
「アニマルウェルフェア」とは程遠い
動物保護団体からは、畜舎内で飼育されている乳牛の飼育環境の劣悪さを問題視する声も多く聞かれる。牛、豚、肉用鶏、採卵鶏といった家畜の飼育は、日本では、生産効率を上げるための工場畜産が一般的で、畜舎での牛の囲い飼いや繋ぎ飼い、豚のストール(肉用豚繁殖のために母豚を拘束する檻)飼育、肉用鶏の密飼い、採卵鶏のケージ飼い等、動物が行動する自由を著しく奪う方法で行われている。
乳牛の場合、牛舎内では危害を及ぼす可能性のある角が切り取られ、尻尾を切る農家もある。
なぜ日本ではこうした飼育が当たり前なのか。それは生産効率を高め、なるべく安く消費者に牛乳を提供するためだ。現在、スーパーなどで1リットルの紙パック入り牛乳が200円程度で買える。その半分の500mLのミネラルウォーターやソフトドリンクは150円以上するから、牛乳はそれより安い。
消費者はこうした価格に慣れてしまっているが、その裏で、乳牛がどのような状況で飼育されているのかを考えてみる必要がある。
動物の飼育環境を改善する考えがアニマルウェルフェア(animal welfare)であり、昨年12月に発覚した事件で広く知られるようになった。
鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループ秋田善祺元代表から現金500万円の賄賂を受領したとして、吉川貴盛元農水大臣を収賄罪で、金を渡した秋田元代表を贈賄、政治資金規正法違反の罪で東京地検特捜部と広島地検が起訴したこの事件。秋田元代表がアニマルウェルフェア推進を嫌い、政治家に裏金を渡してその推進を止めさせようとしたということで、報道が相次いだ。
アニマルウェルフェアとは、「動物福祉」あるいは「家畜福祉」と訳されるが、人間が動物に対して与える痛みやストレスをなるべく抑えることにより、生きものとしての命の尊厳を守り、より快適な環境下で飼育する考え方のことだ。
日本ではまだまだ理解が進んでいないが、世界的な流れになっており、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)の配慮項目の一つにもなっている。
当たり前だが、メス牛しかお乳を出さない。また、出産した後でなければお乳は出ない。人間と同じだ。搾乳のために妊娠させると当然、子牛を出産する。メスの子牛の場合は通常生まれて約1年2ヶ月〜4ヶ月後に、牛乳をたくさん出すことのできる遺伝子を親から受け継いだオス牛の精子が人工授精され、人間と同じ10ヶ月の妊娠期間を経て、はじめての出産をする。出産後、通常約2ヵ月後には2回目の人工授精がなされ、牛乳を出す期間が途切れることなく維持される。
牛の寿命は15〜20年ほどとされるが、乳牛は毎年出産と妊娠を繰り返し、乳を多量にしぼるため、5〜6年で廃牛となり、食肉となる。その繰り返しだ。また飼育場で生まれるオスの子牛には肉牛としての短い一生が待っている。生まれて数週間ほどで肉牛用子牛として出荷され、肉牛飼育場で2年ほど飼育されて肉となる。