昨年末に放送されたNHKの番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、五輪反対デモの参加者が金銭をもらって動員されたとする裏付けのない字幕が流された問題で、
実際にデモを行ってきた市民団体が28日、NHKに「番組でデマ、捏造が行われたことに対し、当事者として謝罪を求める」とする抗議文を提出した。(デジタル編集部・瀧田健司)

この番組は、五輪公式映画で総監督を務める河瀬直美さんら撮影スタッフにNHKが密着取材した内容。撮影スタッフの島田角栄さんが匿名の男性をインタビューしている場面で
「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が付けられた。放送後に抗議が殺到したことを受け、
NHKが再度事実確認したところ、男性が東京五輪反対デモに参加したかどうかを確認していなかったことが判明した。

抗議文を提出したのは、市民団体「オリンピック災害おことわり連絡会」。番組で同団体などによる五輪反対デモの様子が映し出され、問題の字幕が流された構成を
「参加者を金で動員しているかのような悪質な印象操作がされた。主体的に参加した多くの人々への侮辱だ」と批判。
河瀬さんや島田さんに責任はないとするNHKの事後対応についても「担当者のチェックミスで幕引きを図ろうという思惑が働いているのではないか」と疑問を投げかけ、
番組制作の詳しい経緯を説明することを求めている。

抗議文提出に合わせ、同様に五輪反対デモを展開してきた「反五輪の会」「東京にオリンピックはいらないネット」ら20人余りの市民有志が、
東京都渋谷区のNHK放送センター近くで声を上げた。いずれの団体も、これまでの五輪反対デモで参加者に金銭を支払ったことは一切ないと主張。
問題となった字幕の男性にも心当たりはないという。

NHKはこれまでに「映画製作の関係者、視聴者のみなさまに深くおわびする」などといったコメントを出しているが、デモを行ってきた市民に対して謝罪はしていない。
番組の放送前後で、NHKから3団体に対して金銭による動員があったか事実を確認する問い合わせなども一切なかったという。

デモ参加者の杉原浩司さん(56)は「日本で社会運動に参加するのはただでさえ敷居が高いのに、デモは金で動員されていると貶おとしめ、さらにハードルを上げた。
社会運動全体に対する許しがたい攻撃だ」と憤った。

◆なぜ五輪デモと無関係の山谷地区でインタビュー?
問題となった字幕をつけられた男性をどのような経緯で取材したのか、これまでにNHKは明確な説明をしていない。
番組は、日雇い労働者が多い台東区の山谷地区で撮影されており、男性は「デモは全部上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言ったあとに言うだけ」
「それは予定表をもらっているからそれを見て行くだけ」などと、何らかのデモに参加したことを示唆する発言をしているが、
東京五輪反対のデモに参加して金銭をもらったことを裏付ける発言はしていない。

島田さんは、男性を取材した経緯について、これまでに公表したコメントの中で「取材対象を探す中で出会った方で、その場で取材を申し込み、後日、公園でのインタビューをした」
「五輪のデモに参加したという主旨の発言はなかった」などと言及しているが、詳しい経緯までは明らかにしていない。

「反五輪の会」の首藤久美子さん(50)によると、山谷地区などを含めた路上生活者がデモに参加することはあり、遠い会場への交通費を切符として渡すことはあるが、
金銭で動員を呼びかけることはないという。山谷地区の近くで五輪反対を目的としたデモがあったかどうかは、いずれの団体も「把握していない」「ないと思う」と口をそろえる。

「オリンピック災害おことわり連絡会」は、河瀬さんと島田さんに対し、問題の男性を取材した理由、実際に男性に取材した内容、番組放送後すぐにNHKに抗議しなかった理由、
デモ参加者に謝罪する意志があるかなどをただす質問状を送付したことを明らかにした。

本紙デジタル編集部はNHK広報局に対し、五輪反対デモの参加者に対して謝罪する意向はないか、問題の男性をどのような経緯で取材対象として選んだか、
問題となった字幕が虚偽や捏造だという認識はないかなどの質問を送付した。

NHK広報局は「1月24日に調査チームを立ち上げ、原因や問題の背景を正確に把握するため調査を進めている所であり、詳細についてはお答えを控えさせていただきます」と答えるにとどめた。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/156980