Aさん(50代、男性)の父親(82歳)は実家で1人暮らし。ある時、転倒して骨折。Aさんは病院に駆けつけました。
入院手続きをしたところ、“入院保証金”が必要とのこと。「ベッドに横たわる父に、『5万円出せ』とは言いづらくて、立て替えました」。
退院時に入院費用で相殺されるからと、その時は気にしていませんでした。
しかし、父親はどんどん弱っていきました。リハビリ病院に転院する頃には、認知症のような症状が……。
結局、Aさんが転院の手続きを行い、最初の病院の費用も、リハビリ病院の費用も支払う羽目に。

「妹からは『お兄ちゃんは長男なんだし』と押し付けられました」。入院費用だけではありません。半年間に10回以上往復することになりました。
1回の交通費に、タクシー代も含めて4万円近くかかります。
父親の下着やオムツを購入する費用、その他もろもろも重なるとバカになりません。

「実家を家探ししたところ、年金が振り込まれる通帳が出てきました。地元の信用金庫です。記帳してみたところ、そこそこのお金は入っているのですが……。
まさかの、キャッシュカードは作っていなかったようで」

信用金庫の窓口で事情を説明したところ、お金を引き出すには、父親の委任状が必要だと言われました。けれども、父親は自分の名前を書ける状況になく……。
「最終的には、信用金庫の支店長が僕の携帯に電話をかけてきてくれて、それを父親に渡し、父が『はい、はい』と言ったことで、病院の費用を引き出すことができました」とAさん。

負担が軽減したとはいえ、今後、自宅に戻るにしろ、施設に入るにしろ、支払いの問題がついてまわります。
「先が見えないんですよ。1年とか、期限があるなら、僕が立て替えますが、もしかしたら、10年単位になるかもしれません。その間、僕が払い続けることになったら、こっちの家計が破綻します」

Bさんのケース: 弱っていた母親が、高齢者施設に入居して元気に、そしてお金が不足
Bさん(60代、女性)の母親(92歳)は、9年前まで実家で1人暮らしをしていました。83歳の時病気で入院。「回復したものの、退院後1人暮らしさせるのは心配でした」。
Bさんは弟とも相談し、父親の残したお金で母親を有料老人ホームに入れました。
「母の年金だけではムリでしたが、母も83歳になっていたので、生きても85歳くらいまでかなと。まさか90歳超まで生きるとは想像しませんでした」とBさん。
父親の残したお金と母親が受給している年金で、5年くらいなら大丈夫と見積もったのです。

ところが、母親は入居してどんどん元気になりました。栄養士が管理している食事を食べ、リハビリやレクリエーションを楽しみ、広いお風呂を利用でき……。
「実家は田舎だし、売るにも買い手はつきません。父の残したお金もなくなり、ホームの利用料の不足は弟と私が折半で払っています」とBさん。

しかし、それも限界だとか。母親を、利用料の安い公的な特別養護老人ホーム(特養)に移したいと考えています。しかし、特養に申し込めるのは要介護3以上。
元気になった母親は、現在、要介護2。「母親が弱るのを待っているようで、ひどい娘ですよね」とBさんはため息をつきました。

AさんBさんの事例から、親の介護とお金の密接な関係を理解いただけたでしょうか。Aさんは50代、Bさんは60代ですが、30代くらいで親に介護が必要になるケースもあります。
AさんもBさんも、望んだわけではないのに、倒れた親にかかる費用を負担しています。そして、それにより彼らの家計がひっ迫。
彼らには彼らの生活があり、Bさんに至っては、すでに“高齢者”と言われる年代です。
2人のようにならないためには、親が元気なうちから、「介護費用は本人のお金をあてる」「ムリしてまでは援助しない」と決意し、準備をしておくことが欠かせません。

介護は突然やってきます。AさんBさんの親がそうだったように、入院がきっかけとなるケースが非常に多い印象です。入院すれば、遠くない時期に“退院”が待ち受けています。
その時、介護をどうするかについて無計画だと、AさんBさんのようになりかねません。
親のお金事情を知っていてこそ、どれくらいサービスを使えるか、どんな施設を選べるかを考えることができるのです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/otasaeko/20220131-00279060