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ヴィーナスフォート 3月末に23年の歴史に幕 東京「お台場」発展の礎

東京・お台場を一躍有名にした複合施設パレットタウン内にあるヴィーナスフォート(江東区)が3月27日、閉館する。当時は空き地だらけのお台場で1999年に開業。ヨーロッパの街並みを再現した館内は、まだ珍しかった「おもてなし」や「モノよりコト消費」といった哲学を用い、家族連れやカップルらを呼び込んだ。お台場発展の礎ともいえる施設の歴史をたどった
◆目指したのは日本初のテーマパーク型ショッピングモール
 「店の前を大河のように人が流れていた。閉店まで人が帰らず働きづめだった」。同所ではちみつ専門店「ラ・メゾン・ド・ミエール・ナミキ」を営む並木正幸さん(74)は開業当時を振り返る。
 館内は日本初となる「全天候型」の照明演出で、天井には青空や夕焼けが刻々と映し出される。中世ヨーロッパの街並みを再現し、噴水広場も設けた。歩くと欧州旅行の気分を味わえるのは、今も変わらない。
 「環境とホスピタリティー(歓待)を徹底的につくり込んだ。店舗スタッフを街の住人と位置付け、訪れる人には『いらっしゃいませ』ではなく『ようこそこんにちは』で統一した」。同所を運営する森ビルで当時の開発責任者だった栗原弘一執行役員は明かす。目指したのは日本初のテーマパーク型ショッピングモールだ。
◆「ここまでやってくれる館はなかったよ」
 だが、開業前のテナント集めには苦労したという。当初は店舗の運営理念への共感が広がらず、空き地が目立つお台場へ出店をためらう店が多かった。そこで、出店候補の70社145人を米ラスベガスの商業モールに連れていった。理想のサービスとおもてなしを体感し、お台場で再現してもらう狙いだった。
 はちみつ店の並木さんは「開業後のフォローも丁寧で、店同士の連帯感が生まれた」と強調。「ここまでやってくれる館はなかったよ」と閉館を惜しむ。

 東京都港湾局によると、臨海副都心エリアの来訪者は98年に2510万人だったが、2019年には5580万人と倍増した。だがパレットタウンでは昨年末、トヨタ自動車のテーマパーク「メガウェブ」が閉園。ヴィーナスフォートも来月末に閉館し、夏には大観覧車など他施設も順次営業を終了する。
◆跡地にはトヨタの多目的アリーナ
 跡地にはトヨタの多目的アリーナが開業予定だ。森ビル側の具体策はこれから。栗原執行役員は「お台場の発展の車輪を転がす役割は果たせた」とし、「今後も東京の競争力を引き上げる魅力的な街づくりをしていきたい」と語った。