https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53250810S9A211C1000000/
「アフリカのアマゾン」、事業縮小へと180度転換
アフリカ各地で事業展開するナイジェリアの電子商取引大手ジュミアは、数週間前にカメルーンとタンザニアから撤退したのに続き、ルワンダ事業を閉鎖する。企業価値が10億ドル(約1100億円)超の未上場企業を意味する「ユニコーン」として注目された同社は、4月にニューヨーク証券取引所で上場した米国預託証券(ADR)が最高値から90%近く値下がりし、事業の縮小に乗り出している。
ルワンダ撤退でアフリカでの事業は11カ国に縮小する。インフラが弱く、物流の発達が不十分で、ネットショッピングが世間の信頼を得られていないこの地域に、電子商取引ビジネスを広げることの難しさを浮き彫りにした。
独投資会社ロケットインターネットの出資を受けるジュミアが長らく強みの一つとしてきた事業スケールも損なわれることになる。
旅行予約サイトも閉鎖
ジュミアのサッシャ・ポニョネック共同最高経営責任者(CEO)は、市場や製品、サービスを見直す中で撤退を決めるのは珍しくないとし、モザンビーク事業や配車サービスを終わらせた過去があると指摘した。ジュミアは10日、旅行予約サイトの実質的閉鎖も発表した。
ポニョネック氏は「最近の変革が続いている形であり、この戦略はわれわれに合致している。ジュミアを黒字化し、(決済プラットフォームの)ジュミアペイを普及させていくという極めてシンプルな内容だ」と述べた。
「時には国やカテゴリーの範囲を変える決断を下す。だが、それは企業が軸足を調節するうえで普通に行うことであり、戦略は変わっていない」
ジュミアは今回の動きについて、11月に発表した「ポートフォリオ最適化戦略」の一環だと説明している。
ポニョネック氏はコスト管理の重要性を強調している。2019年7〜9月期は損失が5460万ユーロ(約66億円)と、前年同期の4060万ユーロから膨らみ、売上高がアナリスト予想に届かなかったのも直近の3四半期で2度目だった。ナイジェリアで12年に創業して以来の累積赤字は10億ドルを超えている。
しかしポニョネック氏は、米アマゾン・ドット・コムや中国のアリババ集団、中南米のメルカドリブレの成功を引き合いに、ジュミアの追求する事業モデルがうまく機能しうる証拠だと述べた。ジュミアを利用する買い手と売り手の数は増加中で、幸先は良いとの見方をしている。
同社は成長戦略の一環として、フィンテック分野のプラットフォームであるジュミアペイに軸足を移している。ジュミアペイでの決済額は7〜9月期、前年同期のほぼ2倍の3200万ユーロに達した。
フィンテックはアフリカで最も注目されるIT分野だ。ベンチャーキャピタル各社が投資を加速、11月には1週間で4億ドル近くがナイジェリアのスタートアップ企業3社に流れ込んだ。これらの企業は、ナイジェリアで約99%を占める現金決済からオンライン決済への移行を促すことを目指す。ジュミアは自社の決済サービスこそ、電子商取引の需要を喚起する鍵になると考えている。
だが投資家の見立ては異なる。
ジュミアは4月に華々しくニューヨーク上場を果たし、主にアフリカで事業展開するスタートアップ企業としては初めて時価総額が10億ドルを突破した。ADRの価格は上場から数週間後に49.77ドルをつけたものの、これまでに5.96ドルへと下落。現在の時価総額は4億5830万ドルと、最高値に比べて10分の1程度にとどまっている。
5月には、ショートセラー(空売り筋)のシトロン・リサーチがジュミアの目論見書に事実と異なる記載を指摘したことを受けて、ADRがおよそ25%値下がりした。ジュミアは詐欺の疑いを否定している。
市場ではジュミアについて、海外からアフリカに商品を発送するアマゾンなどの企業や、アフリカ各国でネット販売に力を入れつつある小規模事業者との競争に直面するとの見方が出ている。
ナイジェリアのダイヤモンド銀行のCEOであり、テクノロジー業界に投資するウゾマ・ドジエ氏は「iPhoneが欲しい場合、ジュミアに頼むと21日かかるといわれるが、アマゾンだと1週間以内で送られ、付加価値税(VAT)がかからず、真っすぐ家まで届けてくれる」と話す。
「高く、遅い」
「ジュミアだと全く違う。値段も高く、配達も遅く、信頼性の問題もある」
ジュミアのような大手に対して、小規模事業者が有利な点もあるという。
ドジエ氏は「より速く、安く、そして安心感を与えることで、インスタグラム上の小規模事業者がジュミアから顧客を奪いつつある」と指摘する。それは「インスタグラムでは、買おうとしている服を着た既知の人の写真を見ることができるからだ」が、「ジュミアにはこうしたSNS的な側面がなく、取引の要素が強い」という。