「政治活動家」の出展見送り 熊本市現代美術館が経緯公表 芸術性とリスク議論に|熊本日日新聞社
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熊本市現代美術館は31日、2021年3〜4月に開催した九州の現代作家のグループ展「段々降りてゆく」について、「革命家」や「政治活動家」を名乗って表現活動をしている外山恒一氏(福岡市)の出展を見送った経緯をまとめた記録集を公表した。公立美術館が政治性を帯びた表現を取り上げる是非やリスクマネジメントを巡って市や美術館内で異論が出て、開幕までに合意が得られなかったとしている。

企画展は九州を拠点に自らの問題意識を掘り下げる表現者7組の作品を紹介。美術館と熊日が主催した。

記録集によると、展覧会の企画・運営は、美術館を運営する熊本市美術文化振興財団の学芸員らでつくるチームが担当。当初は外山氏を含む8組で展示を計画し、外山氏が制作したビラやミニコミ、主張の展示などを検討していた。

チームは、政治的内容を含む外山氏の作品を公立美術館で展示するには慎重な議論が必要と考え、20年10月に熊本市に相談。市は外山氏の展示が問題視された場合、企画展そのものや、ほかの出品作家にも影響が及ぶ可能性があることなどから「妥当ではない」との見解を示した。運営する財団幹部も、外山氏が福岡県知事選で有権者に棄権を呼びかけるパフォーマンスを展開していることなどを問題視。「美術館が外山氏の主張内容を支持しているように見える可能性がある」と懸念した。

これに対し、チームは「問題意識を掘り下げ続ける姿勢や独自の表現活動に芸術的関心から注目するものであり、外山氏の政治的主張を広めることが目的ではない」と説明。しかし、財団幹部は、政治的中立性が保たれていないと外部から見なされうる▽市民の反発が見込まれ、打ち切りに追い込まれるなどリスクマネジメントが困難─といった理由から同意せず、21年2月に開幕期限を迎えた。

岩ア千夏副館長は「今回の議論は公立美術館が『議会制民主主義の思想に対する反対意見を擁する表現』を展示することについての議論」であり、「個人の思想や表現の自由を制限するか否かの議論ではない」としている。

記録集には、外山氏も「コトを荒立てようとしてきた私の『作品』は、そりゃあ展示するわけにはいくまい。もっと云[い]えば、私はむしろ企画が通らなかったことにホッとしているのである」などという文章を寄せている。(文化生活部取材班)