就職氷河期から20年、中年男性は新人公務員に

 「試験結果 合格」。2019年11月、木村 直亮なおあき さん(47)のもとに、1通の封書が届いた。差出人は、兵庫県宝塚市人材育成課。

 この年、同市は全国に先駆けて、〈就職氷河期世代〉限定の職員採用試験に踏み切っていた。1800人以上が応募したこの試験で、木村さんは合格者4人のうちの1人に選ばれた。

 大学を卒業してからの20年間、6か所の職場を渡り歩いてきた。そのほとんどが非正規雇用。食べるものに困っていたわけではない。でも、日々は重苦しく、毎年春が近づくと、「契約更新してもらえるだろうか」と不安だった。

 宝塚市の正規職員となって2年が過ぎた。「自分たちの世代に光が当たった」ことの重みをかみしめながら、木村さんは働いている
 典型的な〈就職氷河期〉の道のりを、木村 直亮なおあき さん(47)は歩んできた。

 奈良県で育ち、県立の進学校を出て、1浪して同志社大学商学部に入った。ここまでは良かった。しかし、いざ就職しようとすると、どの企業も新卒の採用が極端に少ない。

 木村さんは、留年までして、大学3年生からの足かけ3年、銀行、保険会社、メーカーなど「大手」とされる会社を100社ほど受けた。しかし、不採用が続いた。

 ある会社では、面接を受けている最中、面接官は外からかかってきた電話でずっと話し込んでいた。採る気がないことは一目瞭然だった。

 同居の両親から「どうすんの」と何度も聞かれ、「言うてもしかたないやん」といら立ちながら答える日々。結局、どこにも決まらないまま、1999年に大学を卒業した。

 就職氷河期世代――。バブル崩壊後、企業が新卒採用を抑制した1993〜2004年頃に社会に出た世代は、こう呼ばれる。

 学校を出ても、正社員として雇ってもらえない。木村さんの場合、最初に就いた仕事は、雑貨店のアルバイト。そこから、ショッピングセンターの管理会社、税理士事務所……。いずれも契約社員などの非正規雇用だった。

 途中、1度だけコンビニ会社の正社員になったことがある。だが、早朝から深夜まで店舗を巡回し、休日もトラブル対応で出勤。売り上げを維持するため、自腹でケーキやお歳暮商品をいくつも買った。次第に食事もとれないほどに 憔悴しょうすい し、3年で退職した。

 10年にわたって付き合った恋人もいた。が、「先の見えない生活に自信が持てなくて」。結婚に踏み切れず、別れを告げた。

 気づけば40歳代の半ば。

 「氷河期というのは、静かに自分の上にのしかかってくる重しのようなもの。ひたすら一人で耐え忍ばなければならない、薄暗い世界だった」

 そんな時、四つ下の妹がLINEで教えてくれた。兵庫県宝塚市が、なんと自分たち「氷河期世代」だけに的を絞って、正規職員の採用試験を実施するという。

 「自分たちの世代は、忘れられていなかった!」

 2019年の夏、木村さんは試験に応募した。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220312-OYT1T50196/amp/
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