学生に「ゴールデンウィーク中に観るといいアニメを教えてほしい」と頼まれ、アニメ評論家・藤津亮太は考えた。
20歳のアニメファン向け「入門書」を編むべきではないか。
この本を読むことで「日本でメジャー流通するアニメが、現在のような形になっている背景を知ることができる」ことを目標に、まずはタイトル選びに着手した。

というわけで、ここからは藤津なりの「入門書」のアイデアを書いてみようと思う。
五味ほどの守備範囲の広さはないので、20歳のアニメファンを想定し、この本を読むことで「日本でメジャー流通するアニメが、現在のような形になっている背景を知ることができる」というところにゴールを設定する。

手軽に観られるように映画を中心に構成しつつ、外せない作品のみテレビアニメを取り入れる。作品は50作品以内に収めたい。

だが、このリストは「すべてのおもしろい作品」や「歴史的転換点の作品」を網羅することが目的ではない。その目的はもう少し別のところにある。

そんなコンセプトで仮に選んでみたのが、次の38作品だ。まだ50作には余裕があるので、もうちょっとブラッシュアップする余地もあるだろう。

この38作品のポイントは、単に必見作品というだけではない。
この38作品は、そこから作品をピックアップして、複数作品を組み合わせることで、アニメを貫くさまざまな文脈についても知ることができる、というふうに選んでいるところが重要なのだ。
ジャンルを見るときに大事なのは、そうした複数の文脈をちゃんと自分の中に持つことだ。
それによって「好きなアニメがある」から「アニメが好き」という状態に近づくことができる。

たとえば「作画の進化」という文脈では『タイガーマスク』、『銀河鉄道999』、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』、
『AKIRA』、『御先祖様万々歳!』、『人狼 JIN-ROH』という7作品を取り上げて解説する。

デジタル(CG)であれば、『AKIRA』、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』、『マインド・ゲーム』、『BLAME!』を並べて、その発展史を総覧する。

技術的なことだけではなく、作品が扱ったモチーフでも文脈を拾うことができる。「少女と変身」であれば『魔法のスターマジカルエミ 蝉時雨』、『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』、『少女革命ウテナ』、『HUGっと!プリキュア』、
「少年と世界」であれば『太陽の王子 ホルスの大冒険』、『銀河鉄道999(劇場版)』、『機動戦士ガンダム(劇場版三部作)』、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』、『新世紀エヴァンゲリオン』という作品をつないでいく。

試しにいろいろ文脈を作ってみたが、現在の38作品であっても、15テーマぐらいは考えることができる。
このようにして各個の作品を結ぶ線を設定することで、制作技術やモチーフ・主題を浮かび上がらせれば、今多くの人が触れている“日本のアニメ”の形が見えてくるはずだ。

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