https://www.amed.go.jp/news/release_20220517-02.html
女性ホルモンは乾癬を抑制する―エストラジオールによる抗皮膚炎症作用―
京都大学大学院医学研究科 足立晃正助教(研究当時、現:東京都立墨東病院)、本田哲也同講師 (研究当時、現:浜松医科大学教授)、椛島健治同教授らの研究グループは、女性ホルモンの一種であるエストラジオールが、好中球やマクロファージ注1などの免疫細胞の活性化を制御し、乾癬において抑制作用を発揮していることを動物モデルで突き止めました。
乾癬は、全世界で1%ほどが罹患しているとされる慢性炎症性皮膚疾患です。これまで、女性は男性にくらべて乾癬の罹患率・重症度が低いことが報告されていました。しかし、その機序は不明でした。本研究では女性ホルモンに着目し、マウスの乾癬モデルを用いてその機序を検討しました。エストラジオールの産生ができないマウスでは皮膚炎症は増悪し、逆にエストラジオールの補充は皮膚炎症の増悪を抑えました。エストラジオールは好中球やマクロファージなどの免疫細胞に作用し、これらの細胞の活性化を抑え、皮膚炎症を抑制していることが明らかとなりました。本研究により、女性ホルモンが皮膚の健康に寄与する新たなメカニズムが解明されました。今後、女性ホルモンに着目した新たな乾癬治療法の開発が期待されます。
背景
乾癬は、アトピー性皮膚炎とならぶ代表的な慢性炎症性皮膚疾患です。特に欧米において頻度が高く、全世界で1%ほどの人口が罹患していると推定されています。日本にも多くの乾癬患者さんが存在し、皮膚炎症で苦しんでいます。これまで、乾癬では女性は男性にくらべて罹患率、および重症度が低いと報告されてきました。しかし、その詳細な分子メカニズムは不明でした。我々は、この機序として女性ホルモンに着目し、本研究を開始しました。
研究手法・成果
まず雌マウスの卵巣を除去し、女性ホルモンが産生できない状態を人工的に作成しました。次にそのマウスに薬物により乾癬炎症を誘導しました。その結果、卵巣除去マウスでは、卵巣を除去していないマウスにくらべ、皮膚炎症が著しく増悪しました。一方、卵巣除去マウスに女性ホルモンの一種であるエストラジオールを補充すると、皮膚炎症の増悪は認められませんでした。このことから、エストラジオールはなんらかの機序により乾癬炎症に抑制的に作用していると考えられました。
乾癬は免疫細胞の過剰活性化がその発症に重要であることがわかっています。我々はエストラジオールが免疫細胞の活性化を制御することで乾癬炎症を抑制している可能性を考え、エストラジオールの作用標的細胞を検討しました。その結果、エストラジオールの標的細胞として、好中球とマクロファージを同定しました。好中球とマクロファージにエストラジオールを作用させると、それらの細胞の活性化が抑制されました。また、好中球やマクロファージにエストラジオールが作用できないように遺伝子改変したマウスでは、エストラジオールによる皮膚炎症抑制効果は認められなくなりました。以上から、エストラジオールは好中球とマクロファージの機能を制御することで、乾癬炎症の内在性抑制因子として機能していることが明らかとなりました。
この研究成果により、女性において乾癬の罹患率や重症度が低くなる理由の一部が解明されました。本研究成果は、女性ホルモンの新たな生理機能の理解と、乾癬における新たな創薬標的を考える上で重要な意義をもつと考えられます。
波及効果、今後の予定
女性ホルモンの一種であるエストラジオールが乾癬の抑制因子として作用しうることが解明されました。本研究結果は、エストラジオールに着目した乾癬の新たな治療・予防戦略に応用できる可能性があります。ただし、現在は動物モデルでの検討結果であるため、今後は、人でも同様の作用が認められるかを確認する必要があります。