「開業医の矜持(きょうじ)のなさが露呈している」。ある中核病院の医師は夜間の救急医療維持に必要な診療所医師の協力を得られず、あきれて首を振る。
夜間救急で応援を求めるのは2024年度から医師の働き方改革として勤務医の時間外労働規制が強まるためだ。開業医らが輪番で協力すれば維持できる。
ただ医師会幹部は「夜勤をしたくないから開業した」と背を向ける。中核病院の医師は「医療行為の一部を他職種に移すタスクシフトが求められているのに、医師間のタスクシフトさえできない」とこぼす。
国内の医師32万人のうち11万人が診療所で働く。3分の1を占める開業医へのガバナンス(統治)が弱い。コロナ対応も開業医の協力度で二極化した。
品川区医師会はスタートアップが始めたオンライン診療システムを導入し、自宅療養の患者を診た。一方、発熱外来などに非協力的だった地域では適切な医療を受けられない患者が相次いだ。和歌山県では開業医らがワクチン接種を担い、他県より迅速に高齢者の接種を進めた。
日本は医師の開業に制限がなく、診療科も自由に掲げることができる。政府は医学部の定員枠でしか医師数をコントロールできない。医療需要に応じて医療機関の数や診療科ごとの医師数を決められれば、医療人材を有効に活用できるのに、そうした仕組みもない。
英国では国民医療制度(NHS)が原則すべての医療提供を取り仕切る。住民が選んだ家庭医が“専属”となり、幅広い病気を診る。専門的治療が必要かは家庭医が判断する。コロナ禍でも家庭医がオンライン診療を拡充し対応した。
日本医師会もかかりつけ医を持つよう勧めるが英国の家庭医とは異なる。患者が自由に受診先を選べる半面、医師が責任を持って面倒をみる関係性も薄い。英国型の制度を取り入れると開業医は減収となる恐れがあり、日医の抵抗は強い。
医療再建(上)開業医の統治不全に風穴を
遅れるデジタル活用
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61892510R20C22A6MM8000/