どんぶり鉢に広がる芸術と、町中華の哲学

 天童市交り江に1989(平成元)年に開店した「中国料理 美香蘭」。店主の高田秀郎さんが修行時代を過ごした東京の中華料理店は世田谷区成城にあり、映画やテレビのスターがひいきにする人気店でした。奥さんの美智子さんはその店のオーナーの姪で、貯金がなかった高田さんは結婚を反対され一念発起。2年で500万円の貯金をし結婚を許可されたそうです。その後、料理長として腕を振るい上京から20年が過ぎた頃、二人の地元である山形県で看板を上げることを決意。店名はそれぞれの氏名から一字ずつとって「美香(高)蘭」と名付けました。

 その名を冠したオリジナルメニューが ”山形版の担々麺 “と高田さんが話す「美香麺」です。ひき肉と青菜を炒めた肉みそ、醤油ベースに少量の酢を加えたスープと、のど越しのよい細麺が絡み、ほかでは味わえない甘みが感じられる一杯。「ラーメンはどんぶり鉢の芸術。どんぶりの中で全てが成立してるでしょう」という高田さんの言葉にうなずけるおいしさです。

 開店してから31年、これまでの苦労を聞くと「ないです」と即答。そのかわりに友人の喫茶店にエビチリを挟んだドッグを提案したり、別の友人が経営するラーメン屋さんの看板メニューを考案したり、遊ぶように料理を探求してきたたくさんのエピソードを語ってくれました。「うちの店は3流。ほかの店の方が立派だし、従業員も多くて行き届いたサービスができていると思う。それでいいんです。うちは人をあまり使わない分、いいものを安く出せるから」という高田さん。中華料理についての知識と技術、経験を、お客さんや同業者、人生に関わるさまざまな人に提供して喜んでもらいたい、その心は昔も今も変わりません。おいしいひと皿の中に町中華の哲学が隠れています。

https://mag.yway.jp/gourmet/29415/


名店っぽいな