ネパールの自然環境保全ナショナルトラストの生物学者、バブ・ラム・ラミチャネ氏によれば、2021年7月から2022年7月の間にネパール、チトワン国立公園では16人がトラに殺された。それ以前の5年間の死亡事故件数は10件だった。

 2022年6月に、最大のトラ生息域のひとつに近いバルディア郡に住む41歳の女性が、薪を集めているときにトラに襲われてけがを負った。ネパールの新聞カトマンズ・ポスト紙によると、この事件に怒った地元の住人らは野生動物からの保護の強化を要求して主要道路を封鎖した。この抗議者らを追い散らそうと治安部隊が催涙ガス弾を投入し、発砲した結果、複数の人がけがをし、1人が死亡した。

 ラミチャネ氏らのグループは、人を傷つけたり殺したりするのは体に障害があるトラや縄張りのないトラが多いことに気づいた。困った動物が、簡単に捕れそうな獲物を狙ったのだ。トラの個体数密度が増えると、一部は生息地の端に縄張りを求めざるをえなくなり、人と出くわす可能性が高くなる。

 このような動物の監視を強化し、時には安楽死を含めて適時に管理することで事故を減らせるだろうとラミチャネ氏は考える。人を襲ったことがあるトラを別の地域に移すことは解決にならないとも言う。ほかの場所で人に危害を加える可能性があるからだ。

 国立公園の周辺で暮らす人びとの多くは、今も燃料にする木材など日々の生活に必要なものを森林から得ていると話すのは、世界自然保護基金(WWF)ネパールの野生生物プログラムを統括するカンチャン・タパ氏だ。政府や環境保全支援団体は、そのような人びとが生計を得るための代替手段を提供することに、もっと力を入れるべきだと訴える。

 IUCNは最新の生息数を発表するとともに、全世界の保護区の拡張と相互の連結を促し、トラの生息地やその周辺にある地域社会との協力を進めるよう、各国に呼びかけた。

「主な問題は、人とトラの接触です」と話すポウデル氏。「政府は保全に伴う社会的費用と、それを本当の意味で私たちみんなが分担する方法について考える必要があります」

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