[進むか 原発再稼働]<中>質疑延々 遅れる審査
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220804-OYT1T50058/

今年3月、原子力規制委員会の会議室で北海道電力泊原子力発電所3号機の安全審査が行われていた。「やる気はあるのか確認させてほしい」。
規制委事務局の原子力規制庁の調査官はオンライン画面に映る北電の役員や社員ら計12人に、こう問いただした。

泊原発の審査は既に9年超に及ぶ。北電は資料を度々提出できず、この日も最大規模の津波想定について回答する時期を遅らせる旨を伝えた。
いらだつ調査官らの苦言は25分間に及び、役員の一人は「問題点を拾い上げながら進めたい」と頼りなげに答えた。

規制委の求めに電力会社が応えられないこうした場面は、原発の審査で珍しくない。東京電力福島第一原発事故後、地震や津波といった自然災害への安全対策が大幅に強化され、再稼働に向けた審査のハードルが格段に高まったからだ。
更田豊志ふけたとよし 委員長は「安全に妥協は許されない」と厳しい姿勢を貫く。

そのため行政手続法に基づく審査にかかる標準処理期間は本来2年だが、大きく超過した原発は多い。
例えば北陸電力は志賀原発の敷地内断層が活断層でないことを証明するため、地下から約160本もの地層の標本を採取。しかしデータの評価を巡って意見が割れ、審査は約8年に及ぶ。

政界や経済界から再稼働を求める声が高まるなか、規制委が厳しい姿勢を貫く背景には事故を二度と起こさないという規制当局の決意がある。原発事故の原因究明に当たった国会の事故調査委員会は規制行政と電力業界のなれ合いが一因だと断じた。
これを受け、規制委は人事や予算を独自に執行できる「3条委員会」として2012年に発足した。全国の原発に電源の多重化や建屋への浸水を防ぐ水密化などを求める「新規制基準」を導入し、シビアアクシデント(過酷事故)のリスクは低減した。