たまには鷲尾の方で

充分に冷やしてあるバッドワイザーの罐ビールを一本一気に飲み、二本目をゆっくり飲みながら、途中で買ってきた七百グラムのビーフでステーキを作ることにする。
大きなフライパンを炙り、サラダ油を少し入れた。煙がたってきたところで、バターの塊りを放りこむ。バターも煙をたてた。
強火にしたまま、鷲尾は塩コショウしたビーフをフライパンに入れた。
薄く焦げ目がつくと、引っくり返す。そっち側の表面も熱で硬化して肉汁があまり逃げないようになると、鷲尾は火を弱めて、フライパンに蓋をかぶせた。
玉ネギを素早くミジン切りにする。もう一回肉を引っくり返してしばらく置き、火を強めてから赤のテーブル・ワインを肉にたっぷりぶっ掛けた。
肉のまわりで肉汁と混ったワインが沸騰する。横のコンロで温めていた皿に肉を移した鷲尾は、フライパンの肉汁とワインにミジン切りにした玉ネギを放りこんでかき混ぜた。
玉ネギが狐色になると、醤油と少量の砂糖を加えた。そいつが沸騰したところで、横のコンロの上の皿のステーキにたっぷりと掛けた。
ライ麦パンと三本目のバッドワイザーでときどき舌を洗いながら、鷲尾はステーキを平らげていく。刑務所でたまに出される御馳走の、衣ばかり厚くて中身は紙のように薄いトンカツとは、味も栄養も雲泥の差だ。