「なくて困った」サニタリーボックス 男性トイレの設置状況に差

 男性トイレにも、女性トイレのようにサニタリーボックス(汚物入れ)を置く動きが全国で広がっている。加齢や前立腺がんなどの後遺症で尿漏れパッドやオムツを使う男性の存在が知られてきたこともあり、当事者が捨て場所を気にせず外出できる環境作りが求められている。兵庫県内の各自治体の庁舎で設置が相次ぐ一方、取り組み状況には差もある。

 設置の動きは、日本骨髄バンクの設立に尽力し、評議員を務める大谷貴子さん(61)=埼玉県加須(かぞ)市=が発端となった。2021年6月、大谷さんは膀胱(ぼうこう)がん経験者でフリーアナウンサーの小倉智昭さん(75)が、動画投稿サイトで「尿漏れパッドの捨て場がない」と話すのを見て驚いた。病院や多目的トイレなどを除くほとんどの男性トイレにサニタリーボックスが無いことを知らなかったのだ。

 大谷さんは知人の記者や議員にこの問題を伝え、自身も22年1月、埼玉新聞に掲載しているコラムで「当事者になって困る前に皆でなんとかしませんか?」と対策を呼びかけた。記事はネットで大きな反響を呼び、議員が取り上げると全国の自治体庁舎で設置の動きが広がり、民間企業にも波及し始めた。

 国立がん研究センターの調査によると、後遺症で尿漏れすることがある前立腺がんの罹患(りかん)数は18年に9万2021人と増加傾向で、男性がかかるがんの1位だ。男性用尿漏れパッドを販売するユニ・チャームの調べでは、発売した14年と比較し、22年の市場規模は約6倍に成長した。

 日本トイレ協会が2月に実施したインターネット調査(回答557人)では、尿漏れパッドなど排せつに補助的な用品を使っている男性38人中26人が「トイレにサニタリーボックスが無くて困った経験がある」と回答。協会の運営委員、砂岡豊彦さん(67)もその一人だ。変形性股関節症の痛み止めの座薬が溶け出してスーツを汚すため、過去に女性の生理用品を使っていた時期があった。使用後は持ち帰っていたが、「生理用品を使っているとは言えず、サニタリーボックスを求める声は上げられなかった」と振り返る。協会として商業施設などにも設置するよう普及啓発活動を始めている。

 兵庫県内の自治体では、姫路市が先進的で、少なくとも10年以上前から市庁舎の男性トイレの全個室にサニタリーボックスを設置している。尿漏れパッドや座薬の容器などが捨てられ、利用も定着しているという。

 他市でも6月議会で議員からの質問を機に設置が進むが、進捗(しんちょく)状況はまちまちだ。芦屋市や三田市は市庁舎各館の男性トイレの全個室に新設。西宮市は本庁舎1階など各館で市民の利用が多い場所にまず導入し、状況を見て拡充を検討する。神戸市は市庁舎1号館1階の男性トイレに設置。宝塚市はこれまで多目的トイレにも無かったため新たに設置したが、一般の男性トイレはスペース不足で置かないという。

 各自治体は図書館や公民館など他の公共施設にも設置を呼びかけているが、管理者が異なるため、対応は施設ごとの判断となる。

 砂岡さんは「利用する人は少数かもしれないが、すべての男性トイレの個室に設置してほしい」と訴える。
https://news.yahoo.co.jp/articles/be7dc661a08a1ae5239ed2f35cceadf4b6adea35