8月下旬から9月にかけての夏休み明けは子どもの自殺が増える傾向にあるが、そもそも人はなぜ「死にたい」と思うのだろうか。死を考える人が周囲にいたら、どんな態度で接したらいいのか。国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師(精神科)に話を聞いた。
 
 松本医師によると、「死にたい」という感情は精神疾患の一つであるうつ病とセットで語られることも多いが「死にたいと思うこと=うつ病」ではない。自殺した人の全てがうつ病を患っているわけでもないという。

 「死にたい」という気持ちが芽生える背景には、特定の神経伝達物質の減少が影響していると指摘する論文はあるものの未解明な点が多く、メカニズムは今も分かっていない。

死を望む理由は多様
国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦さん=東京都小平市で2019年11月25日、清水健二撮影

 松本医師は「自ら命を絶とうと思う理由はさまざまで、心理的、環境的状況によると考えられる」と説明。現代人はさまざまなストレスにさらされており「死を一度も思い描いたことのない人の方が珍しいのではないか。『死にたい』という感情は異常ではなく、『異常な現実に対する正常な反応だ』というスタンスが大切だ」と指摘する。

 一方で、普段から「死にたい」と口にする人は自殺のリスクが高いことも分かっているという。生きていくうえで困難が積み重なり「死ぬ恐怖を割り引いても生きることが苦痛だ」と感じた時に、自分の体を傷つける行動につながる場合がある。「死にたい」という感情には波があり、その強度は上がったり下がったりするという。

 また、松本医師は「若い人の中には『消えたい』『いなくなりたい』などと言う人がいるが、これは『死にたい』という感情の前段階と考えられる」とも語る。こうした言葉が出てくる人は、幼い頃に虐待やいじめ、厳しい叱責などを受けて否定的な自己イメージが定着してしまっている場合が多いとされる。

説得ではなく共感を
イメージ写真=ゲッティ

 自分の周囲で「死にたい」と言う人がいたら、どう対処したらいいのか。一度も「死にたい」と思ったことがない人は、つい「ばかなことをするな」などと言ってしまうかもしれない。

 しかし、松本医師は、こうした対応が「最もまずい関わり方」だと警鐘を鳴らす。「苦しむ人に対して、自分の倫理観や道徳観をもって説得したり論破したりすることは有害だ」と強調する。

 「死にたい」という感情を頭ごなしに否定されると、その時は死を思いとどまるかもしれないが、次に死の感情が芽生えたときは「この人はどうせ分かってくれない」と思って相談しなくなる懸念があるという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e96ed3dc665d3aa9041f2ad31917d24ac1e4ef22