塩野義のコロナ治療薬 承認を求める感染症学会らの提言に疑問の声

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部2022年9月9日

 日本感染症学会と日本化学療法学会が2日、加藤勝信厚生労働相に提出した提言書が医療従事者を中心に波紋を呼んでいる。塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症飲み薬「ゾコーバ」の早期承認などを求める内容だ。「学会が推奨したと聞いて『有効性が証明されているのに国が承認しない』と誤解する人もいるでしょう」。日本感染症学会の評議員で、埼玉医科大総合医療センターの病院長補佐としてコロナ対応の現場指揮をとる感染症専門医、岡秀昭教授(47)はこう指摘した上で、ある懸念を口にした。【西田佐保子】

■治験の主要評価項目はクリアせず
 日本感染症学会の四柳宏理事長、日本化学療法学会の松本哲哉理事長の連名による「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言(https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=49)」(※8日に更新あり)では、流行の「第7波」で医療が逼迫(ひっぱく)している状況下において、「早期診断・早期治療の重要性」「新規抗ウイルス薬の必要性」「抗ウイルス効果の意義」を訴えている。

 これらを早期に実現する方法の一つとして、「臨床試験(治験)でウイルス量の低下が認められ、軽症者にも投与できるコロナの治療薬を承認すること、もしくは承認済みの抗ウイルス薬の適応拡大の可能性を検討すること」を求めた。

 ここで「緊急承認すべきだ」とされているのが、初の新型コロナ国産治療薬として期待されているゾコーバ(一般名:エンシトレルビルフマル酸)だ。後藤茂之厚労相(当時)は6月21日の閣議後会見で、100万人分を確保することで塩野義製薬と合意したと報告している。同薬は、迅速な審査と承認を目的に5月に創設された「緊急承認制度」を適用し、審査が進められていた。

 7月20日に行われた薬事・食品衛生審議会の薬事分科会と医薬品第2部会との合同会議では、塩野義製薬が治療の有効性を示すための「主要評価項目」として、コロナに特徴的な12の症状を定めたが改善せず、提出されたデータからは有効性を「推定できない」と判断された。

 現在実施中の第3相試験(最終段階)の結果などを待ち、改めて審議することになっている(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26901.html)。

 2学会は、提言書を提出した2日、厚労省の記者クラブで会見を実施。松本理事長は提言に至った経緯について、「厳しい感染状況を考慮した上でこの薬が緊急承認制度のもとに審議されたのか疑問を持っている」とし、ゾコーバの承認見送りを受け、「学会員、先生方に厳しい意見をいただき、『このまま学会で動かなくて良いのか』と言われ、突き動かされるような形で提言をまとめた」と語った。また、「私たちが本来求めている薬の評価で一番大事なのはウイルスをどこまで減らせるか。そこをまず重視すべきだ」と主張した。

 「適正に国民へ薬を届けたい」と語った四柳理事長は、ゾコーバの治験に関わり、塩野義製薬から講演料などを受け取るといった「利益相反(COI)」があることに関し、日本感染症学会の理事会役員の全員がこの提言に関して賛成した」と話し、あくまでも学会の立場で提言をまとめているとした。

■「事前の通達はなかった」
 提言を受け、ツイッターでは医療従事者から2学会への批判が噴出した。一時は、「感染症学会」がツイッターのトレンド入りするほどまでに「炎上」したこの提言の具体的に何が問題なのか。

 「本来は科学的な立場で情報を発信しなくてはならない医学会が、もはや感情論的に、治験で効果が証明されなかった治療薬の承認を迫りました」

 「最大の問題」を指摘した岡さんは、日本感染症学会の評議員でありながら、提言について報道で初めて知ったと明かし、「『感染症のプロ集団が出した声明だ』と言っている人もいましたが、総意ではありません。学会の中で議論をすべきでした」と続けた。

 「承認されていない薬を学会が推奨するのであるならば、(日本感染症学会の)理事長…

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https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220909/med/00m/100/017000c