極刑は当然だが、果たして「正常な判断」なのか
9月2日に神戸地裁は判決の中で、こう認定している。「被告人は、精神刺激薬リタリンを長期間、大量に使用したことにより薬剤性精神病に罹患(りかん)し、その症状として体感幻覚、妄想着想、妄想知覚等があったところ、インターネットや書籍でその原因を調べるうちに、『日本国政府やそれに同調する工作員らは一体となって、電磁波兵器・精神工学兵器を使用し個人に攻撃を加えるという行為、すなわち精神工学戦争を行っている』という思想を持つに至った」
殺害した一家はその工作員であり、犯行は電磁波兵器・精神工学兵器に対する反撃だった、と男は主張していた。二つの精神鑑定結果も証拠採用されていたことから、判決は「すべて被告人の罹患している薬剤性精神病の症状として説明がつく」と断定している。
ところが、判決は「精神工学戦争」について、こう述べている。「同様の考えを持つ人物は被告人以外にも存在し、医学博士を含む権威のある人物が書いた複数の書籍に電磁波兵器・精神工学兵器に関する記述が存在する。被告人は、インターネットを通じて同様の考えを持つ複数の人物と交流し、上記の書籍を読むなどするうちに、そのような世界観を身に付けた」。だから、「このような世界観自体は必ずしも妄想とはいえない」というのだ。
その上で、被害者らは工作員で自分が攻撃を受けているとの妄想を前提としているものの、殺害を決意し実行した過程は「病気の症状に大きく影響されたものではなく、正しく被告人自身の正常な心理による判断といえる」として、完全責任能力を認め、死刑を言い渡している。
被害者が5人という重大さから、どうしても極刑に持ち込みたい意図が働いたのかと有識者からは批判の声が上がっている。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=20220910saibanin0001