【内田樹氏に聞く】岸以来の水面下の日韓関係を日本人は知らず、知ろうとしなかった
内田氏=撮影・角田

 思想家の内田樹氏に安倍元首相の狙撃と統一教会問題で揺れる日本の政治を聞いた。安倍氏の突然の退場で安倍系の勢力はハブを失い、合意形成もルールも場もなくし、弱体化していくだろう、と語る。同時に戦前への幻想的な憧れが、安倍系を形作る心理的核だったとし、岸元首相以来の日韓関係についても分析した。(聞き手は角田育裕)

――これから安倍系右翼はどうなると思いますか?

内田 おっしゃっている「安倍系右翼」の定義が僕にはわからないのですけれど、言いたいことは何となくわかります。それが「安倍晋三という個人の求心力やカリスマ性に依存して存在感を発揮していた政治勢力」という意味でなら、その人たちはこの事件をきっかけに力を失い、弱体化すると思います。

 実際に安倍元首相の死後、彼の庇護下でこれまで「いい思い」をしてきたネット論客たちはいまほぼ沈黙状態にあります。どういうスタンスでこの事件に向き合って良いのかについての組織的な合意形成ができていないのでしょう。

 もともと安倍晋三個人が手作りしたネットワークですから、ハブが不在になると、合意形成のための場も、ルールもない。代わりを務めることのできる人がいない。ですから、このまま弱体化して、存在感が希薄になってゆくことになると思います。

 自民党清和会も組織的危機を迎えていると思います。清和会は統一教会との癒着議員が圧倒的に多いので、当分は誰もメディアの前に出てゆくことができない。

 出てゆけば批判の十字砲火を浴びる。次の派閥領袖の座を狙っていた荻生田政調会長も統一教会との親密な関係が暴露されてしまって身動きが取れない。細田博之前会長はセクハラ疑惑とセットで追い込まれていて、これも人前に出て、旗を振れる立場にない。

 そもそも安倍元首相の党運営の基本方針は、自力では国会議員になれないほどに非力な人間を党の丸抱えで当選させ、執行部に絶対に逆らえないイエスマンを揃えてトップダウンの「安倍一強体制」なるものを作り上げることでした。

 執行部に逆らうことのできるほどの気骨と見識のある政治家を組織的に排除してきたわけですから、党内に今回のような危機的状況に対応できる人材がいないのも当然だと思います。

 ――安倍さんを「嫌韓」と思っていた勢力は、実は安倍さんが反日的な韓国の団体と親しかったと判明し、「親韓」にすら見えかねない。

内田 安倍元首相の韓国に対するスタンスは、ネトウヨの感情的な「嫌韓」とはかなり異質なものだったと思います。彼の場合は感情的な「嫌韓」でも「親韓」でもない、もっと複雑なものです。

 とりあえず彼にとって優先するのは、国と国との関係じゃなくて、誰が自分の味方で、誰が敵かということです。自分に反対する人間は自国民であっても敵だし、自分を支援する人間は隣国の人間でも味方である。そういう人はナショナリストとは言いません。

――岸首相のころから韓国とは反共で提携してきたわけですが。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3f562772d5edf8377f3587751ae7e056250a5dfd