シルバー人材センターから紹介された草刈り中に片目を失明した高齢男性が安全管理上の不備があるとして提訴、今年1月にセンターが和解金を支払っていたことが分かった。センターは会員と雇用関係がないため安全配慮義務がなく、提訴自体が異例。会員の高齢化で全国的に事故率が上がり重篤化の傾向もみられる中、長年あいまいにしてきた安全確保策の強化が課題に浮上している。(池尾伸一)

 失明したのは元タイル職人の野口光芳さん(80)。2016年10月、74歳の時にセンターから紹介を受け、大阪府の私大構内を刈り払い機で作業した。現場は30度の急斜面。湿気で保護眼鏡が曇って足元が見えず、滑落の危険から外して作業していると、泥が左目に入った。数日すると激痛を感じ、病院でカビ菌が入ったと判明。手術を受けたが視力は失われた。

 センターの傷害保険で支払われたのは治療費程度で後遺症の補償もない。「危険な現場を紹介すべきでなかった」と大阪地裁にセンターを訴えたが、センターは「安全対策は本人の責任」と主張していた。和解を受け、自らも建設会社の安全衛生責任者を務める長男(49)は「急斜面の草刈りはプロの仕事。高齢者に任せきりなんてあまりにずさん。裁判しなかったら泣き寝入りだった」と振り返る。

https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/202872