「自社株買い」が減少の兆し 米株価に新たなマイナス材料【】

【ベテラン証券マンが教える株のカラクリ】#84

 NY株の急落が止まらない。今後どうなるのか。利上げが一服すれば回復に向かうという楽観論もあるが、さらなる不安材料が出てきた。

「自社株買い」の減少の兆しである。どういうことか説明しよう。

 言うまでもなく、自社株買いは、発行済み株式数の減少を通じて1株あたりの利益を押し上げるので、株高の要因になる。株安局面では株価のテコ入れの効果がある。

 今年、自社株買いは高水準で推移している。日本企業の今年8月の自社株取得枠の設定は、前年同月比43%増の9650億円と、8月として過去最高。1~8月の累計額も7兆円を超える最高水準だ。

 米企業も株主還元策の一環として近年、積極的に自社株買いに動いてきた。その規模は日本企業よりはるかに大きい。とくに目立つのがハイテクや金融大手だ。昨年の米企業の自社株買い実施額は8817億ドル(1ドル=140円換算で約123兆円)もあり、トップ3は、アップルが859億ドル(約12兆円)、アルファベットが502億ドル(約7兆円)、メタ(旧フェイスブック)が445億ドル(約6.2兆円)である。

 こうした巨額な資金が株価の下支えの要因になったことは間違いない。今年の米企業の自社株買いは、上半期で5006億ドル(約70兆円)に達し、年間では1兆ドル(140兆円)に達すると予想されている。

 ここまで巨額資金が投じられても、利上げ圧力に抗しきれないのだから深刻というしかないが、それはともかく、この積極的だった自社株買いにかげりが見えはじめているのだ。金融引き締めの長期化で景気後退に陥るリスクに備えてか、シティグループやベスト・バイのように、むしろ手元資金を保持するために自社株買いを停止する企業が出てきている。さらに今年8月16日、米議会で新たな歳出・歳入法が成立し、企業増税の一環として「自社株買い」への課税が2023年1月から始まることになった。これもボディーブローになるだろう。

 米国の株式市場は、企業が最大の買い手でもある。金利上昇で株式の魅力が減退しているのに加え、株価上昇の原動力だった自社株買いも縮小の方向となると、今後のNY株はますます不安ばかりが高まる状況だ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2587d4b242f814a95c1414b7ec6c1b971bc92979