宇宙の極限環境で合成される元素の割合を加速器実験から算出

中性子星合体や超新星爆発で起こるとされる元素合成の一種「r過程」で作られる重元素の割合を見積もるための加速器実験が成功した。
これにより、宇宙初期の天体と太陽系の組成比を比較することができる。

恒星内部の核融合反応では、水素のような軽い元素から重い元素を生成することができるが、鉄よりも重い元素は作れない。
そこで、鉄を上回る重元素を合成できるようなプロセスの一つとして考えられているのが「速い(rapid)中性子捕獲過程」、通称「r過程」だ。
これは極限的な高温高密度環境において、短時間のうちに次々と原子核に中性子が取り込まれる過程で、
連星を成す中性子星の合体や重い恒星が起こす超新星爆発で生じると予想されている。
r過程は、宇宙に存在する鉄より重い元素の半分、とくにトリウムやウランのように非常に重い元素については全量の生成に関わっているとされる。

ビッグバンから間もないころに生まれた恒星には水素とヘリウム以外の元素がほとんど含まれず、「金属欠乏星」とも呼ばれる。
このような星でも、1回だけのr過程で合成された純粋な重元素成分を持つものがあると考えられており、
そこに含まれる元素やその同位体(中性子の数が異なる元素)の存在比がr過程の起源を解く鍵とされている。
2018年には金属欠乏星におけるバリウムの同位体比が報告された。

r過程で生成されたバリウムの起源を突き止めるため、
理化学研究所仁科加速器科学研究センターRI物理研究室のビー・ホー・ホアンさんをはじめとする国際共同研究グループは、
「超伝導リングサイクロトロン」で光速の70%まで加速させたウラン238をベリリウムに照射し、
核分裂反応によって不安定な原子核を生成し、この原子核が崩壊する際の遅発中性子の放出確率を調べた。

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/12726_r-process