私は、いろいろな事情があって49歳で銀行を辞めたんだけど、40代と50代とではまったく違う。
40代なら、まだ遠くへ飛べそうな気がする。失敗しても、もう一度やり直しがききそうだ。子どもも、まだ小さい。金がかかるようになるまでには時間がある。妻も若い。きっと応援してくれるだろう……。
これが40代。
ところが50代になれば、まったく景色が違ってくる。
体力も衰えている。白髪も増えた。意欲もなくなってきた。おしっこの勢いさえ弱くなった(ごめんなさい、こんな事例は男だけの感想かな)。
子どもは大学進学で仕送りも増えた。住宅ローンもまだ1000万円以上残っている(ある調査によると50代で住宅ローンがある人は、だいたい1000万円以上も抱えているそうだ)。
でも会社に残っても出世は見込めない。後輩に先を越されて、腹が立つことばかりだ。辞めたい。でも辞めたら、その日から路頭に迷うかもしれない。でも、でも……の繰り返し。
私は、ハローワークに相談に行ってみたことがある。すると、相談員に大声で「あなた、甘い!」と叱られた。職業紹介依頼の書類の希望年収欄に、銀行員時代にもらっていた金額での希望収入を書いたからだ。
相談員は「50代になると、この人手不足の中でも、1歳上がるごとに10パーセントの求人が減ります。ですから60歳になると、ゼロになります。ドーン」と、アニメ『笑ゥせぇるすまん』の主人公・喪黒福造のように私に向かって指を突き出した。
「あなたは何ができますか?」
相談員が聞く。
「支店長でした。実績を上げました」
私は答える。
「支店長とは何をするのですか」
「……」
私は沈黙。部下を叱咤激励し、目標達成させるのが支店長の仕事かな? 他に何があるのかな? 部下の教育かな? などと考えていたら答えが出ない。
「人事制度を最初から作れますか?」
「……」
再び沈黙。
人事制度? 人事部にはいたけど、そんなもの作ったことがない。
「作れないのですか?」
喪黒福造は不機嫌そのもの。
「作れと言われれば、作りますが……」
自分のことながら、自信のない答え。
「あなたねぇ、前の会社でどれだけ偉かったか知らないけど、そんなの関係ないから。職務分析して、自分にどんなスキルがあるかが勝負なんだから。若い人なら、会社は安く、長く使うことができるけど、あんた50歳を過ぎてんだよ。高い金で短い期間しか使えないんだ。そんな買い物、あんた、する?」
「……しないです」
「そうでしょう。当然だよね。高くて不味いレストランに誰も行かないのと同じ。今、あなたはそんな状態なの。冷静に自分に何ができるか考え直して、出直しなさい」
喪黒福造は、私に書類を突き返した。
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