緊急特別上映版の上映決定、そして上映された当初は、未見の人が多いであろう状況だったが、賛否両論が沸騰した。山上容疑者本人を英雄視したり、礼賛するような映画ではないか? などの臆測に加え、映画の製作、公開自体が不謹慎との批判や、同容疑者本人をはじめ直接、取材しないのか? など疑問の声もあった。緊急上映を行う劇場にも抗議が入り、9月29日に上映を予定していた鹿児島の映画館は、テナントに入っているデパートに長時間の抗議電話が入ったことで上映中止に追い込まれた。一方で、1回限りの上映だった名古屋と沖縄の映画館が上映回数を増やした。
国葬当日に行われた渋谷での、上映後のトークの中で、タモトは完成版の製作に向けて「追加撮影があると聞いています」と明らかにしていた。足立監督も「本編の編集は90%終わっている。部分修正のものと最終的に足りないと思ったものを1、2日、やるだけ」と認めた。完成版の尺は約80分との見通しも示されていたが、75分に収まったという。製作サイドは、完成版の完成にあたり
「容疑者の犯行を人はテロと呼び、民主主義への最大の挑戦と呼んだ。しかし、それは本質をついているだろうか。この犯行をきっかけとして、政治家と統一教会の尋常ならざる癒着ぶり、保守を標榜(ひょうぼう)する政党の爛熟(らんじゅく)の果ての退廃ぶりが公にさらされた。この映画はもちろん、その是非を問うものではない。しかし、シングルマザー、宗教2世、派遣労働と、この国の貧困を体現してきた1人の男が自分と対極にある1人の男に銃を向ける、それに至る過程を描くことで、この国に決定的に欠けているものを知らしめることになることを望む」
などと製作及び劇場公開の意図と意義を改めて説明。足立監督は「映画表現者は、現代社会で起こる見過ごせない問題に、必ず対峙(たいじ)する。この映画を作ったのも、その一例で、事件発生の中にある見逃せない物語を紡いだものだ」とのコメントを発表した。