理研など、人工冬眠の医療応用に向けマウスで成果 心臓手術時に腎臓への負担を軽減

患者を一時的に「冬眠状態」にしてより安全に心臓などの手術を行う――。SFの世界では
「コールドスリープ」と呼ばれる「人工冬眠」。その状態をつくることで難しい手術以外にも代謝や酸素・エネルギー需要を下げ、
患者の臓器や組織が受ける障害を最小限にする研究が進んでいる。
延命措置や臓器保存といった医療分野のほか、有人宇宙探査への応用も期待されている。

 理化学研究所(理研)と京都大学の研究グループは11月14日、マウスの脳にある特定の神経を刺激して人工冬眠状態にし、
心臓血管手術時に腎臓への負担を軽減できる可能性を確認したと発表した。
理研と筑波大学の研究グループが2020年に「人工冬眠実験マウス」をつくった実績を生かした成果で、医療応用に向けて前進させた。

長い間、SFや夢の世界の話
 脊椎動物の中でも哺乳類は代謝を制御することにより37度前後の体温を保つ。
つまり「恒常性維持」の仕組みを持っているが、一部の種は冬の寒冷期や飢餓状態になると自ら代謝を下げて
体温を低下させることができる。このように制御された低代謝が休眠で、24時間以内の休眠は日内休眠、季節性の休眠は冬眠と呼ばれる。

 冬眠の研究は古く、16世紀ごろにさかのぼるとされるが、心電図や脳波を計測できるようになって研究は進んだ。
冬眠する哺乳類は食料が不足する寒い時期をしのぐため“省エネ状態”を保ち、栄養が乏しい環境を生き抜く。
しかしそのメカニズムはよく分かっていなかった。ましてや冬眠動物の利点を人間の医療に応用する研究は長い間手付かずだった。

 SF作品に登場するコールドスリープは、人体を冷凍保存して生命を維持しながら長い間老化を防ぎ、
目覚めた時は時間だけが経過する。例えば宇宙船による惑星間移動の間も老化しない想定で
「2001年宇宙の旅」などの多くの映画にも登場する。しかし、現実の世界では体を冷凍すると水分が凍って
細胞が破壊されてしまうため、実社会での応用は長い間夢の世界の話だった。

 人間は冬眠しないどころか、体温が平熱より1~2度上がっただけでも体調に影響する。
このため体温低下を誘導する必要がある人工冬眠の研究を人体で行うのは不可能だった。
冬眠動物としてクマが有名だが、実験動物の大半を占める小型のマウスや
大型のラットは冬眠しないため研究が遅れていた。自在に人工的に冬眠させることができる小動物がどうしても必要だった。

以下ソース
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20221207_g01/