スズメバチのオスは「子孫を残すだけ」の役割を果たすためにこの世に存在していると言われている。

女王蜂のように子育てや巣作りをすることもなければ、働き蜂(メス蜂)のようにエサを探したりすることもない。巣を外敵から守り、必要な際に相手を攻撃するのもメス蜂の役割で、オス蜂たちの多くは、ほとんどの時間を巣の中やその周辺で過ごし、繁殖期に女王蜂と交尾をしたあとは死ぬ運命をたどる。

また、お尻の先に針を持つのはメスのみで、オスには針がなく、毒嚢もない。よって、これまで「オスが刺すことはほとんどない」と理解されてきた。

そんなオスのスズメバチが、意外な進化を遂げている可能性があることを示唆する、新たな研究結果が発表された。

12月に​​学術誌「カレントバイオロジー」に掲載されたメイソンハチ(メイソン・スズメバチ)の研究によると、「オスのスズメバチは、(捕食者である)カエルに攻撃された際に、カエルの口などの部分を自らの生殖器で突き刺す反応を頻繁にみせた」という。

同研究は、17匹のアマガエルと17匹のオスのメイソン・スズメバチを対象に行われた。

17匹すべてのカエルがスズメバチを食べようとしたが、襲われたスズメバチたちは自らの男性器を使って捕食者を攻撃する行為をみせた。この反応により、カエルたちのうちの3分の1が、スズメバチを食べるのをやめたという。

次に、男性器を取り除いたオスのスズメバチをアマガエルに与えてみたところ、「カエルたちはそのハチを食べた」。

同研究チームはこの研究結果を、「つまり、オスの男性器は、捕食者に飲み込まれるのを防ぐ役割を果たしている可能性がある」と結論づけている。

そして、この結論を補強する材料のひとつとして「交尾の際に、オスは男性器でメスを刺して攻撃するようなことはない」ことを挙げている。

前述の通り、スズメバチが持つ針は、メスの産卵管が変化したものであるため、オスには毒針がない。ただ、針で刺すような行為をみせるオスが存在することを示す研究結果はこれまでにもあった。

蜂に詳しいユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのセイリアン・サムナー教授は、英紙「ガーディアン」にこう述べている。

「オスのスズメバチは針を持たないため、実際に突き刺すことはできない。だが、自らの男性器を使って『偽の』突き刺しはでき、相手に痛みを与えたり傷を負わせることはできる」。

サムナーの説明によれば、オス蜂の腹の先(お尻のあたり)に針はないが、交尾器が付いており、それを尖らせることで、針のように使っている。つまり、メスを模倣し「メスになりすまそうとしている可能性がある」。

サムナーは、前述の研究には関与していないが、「オスのメイソンハチがアマガエルなどの捕食者から逃れるために、男性器を尖らせて刺すという技術を進化させた可能性がある」と、語っている。

一般的に、カエルは蜂のメスよりも、刺さないオスを狙って捕食する傾向が高いと、サムナーは述べており、このことから、オスのスズメバチは「メスのように刺す行為を見せれば、捕食者であるカエルから逃れられるのではと考え、メスの模倣、つまり、男性器を針のように使って攻撃するようになったのでは」との仮説を立てている。

https://courrier.jp/cj/310110/