<それ、変えませんか?~Change it~>(6)

 「荒川の増水時、支流への逆流を防ぐために造られた『千貫樋せんがんぴ』です」
 小口おぐち千明・埼玉大准教授(53)が説明する。ここはさいたま市桜区。明治期にレンガで建設された治水施設の遺構を前に、女子高校生がハザードマップに目をやる。一帯は今も低地。増水時の危険性は高い。

 先月、埼玉大(同区)が理工系に進む女性を育もうと、計8テーマで開いた女子高校生向け「サイエンス体験」の一コマ。地形学などが専門の小口准教授は、高校生2人と案内役の女子大学生2人の計5人で大学周辺を歩き、洪水への備えについて語った。
 加えて、女子高校生が同大の理工系の女子大学生らと語る会もあった。参加した埼玉県の高校1年生(16)は「地図を見ながら昔、川が流れていた所をたどる貴重な機会だった。研究の話もすごく楽しそうで興味がわいた」と満足そう。
◆アイデアは多様な人材から
 取り組みの背景には、日本の理工系研究者に占める女性の割合の低さがある。昨年3月時点の総務省調査では、大学の自然科学系の女性研究者は27%。ただ保健や医学・薬学関係が高く、理学や工学は10%台にとどまる。埼玉大の「サイエンス体験」でも、指導した教員9人のうち、女性は小口准教授だけだった。

 なぜ女性が少ないのだろう。本紙が昨年4月、自然科学系の女性研究者203人に調査したところ、64%に当たる129人が「無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)」を選んだ。回答者によれば「女子は理系分野が苦手でいいという偏見」「女性は文系との思い込み」などがあるという。内閣府による2022年度の調査では、一般の男性13%、女性7%が「女性に理系の進路は向いていない」と答えている。
 アンコンシャスバイアス 人が性別や人種などについて潜在的に持つ思い込みや偏見を指し、進路選択や人事に悪影響を及ぼすとされる。米国の心理学者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が1982年に提唱。米IT大手・グーグルが2013年、影響を排除する社員教育を始め、広く知られるようになった。国内の学会などが加盟する「男女共同参画学協会連絡会」はホームページで「無意識のバイアス」を紹介しつつ、研究者の女性比率を上げる活動をしている。

 
東京新聞 2023年1月7日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/223859
★1 2023/01/07(土) 08:41:09.36