――昨年沢山負け続けて得たものは何ですか。例えば、負けることの意味とは?

 しばし考えを巡らした羽生は、やはり意表を突いた答えを返してきた。

「何のために将棋を指しているのかなって考えることは結構あります。AIが何百万、何千万局も指している中で、人間が何のためにやっているのか。よく考えますね」

 これまで何度も話を聞いてきたが、振り返れば、なぜ闘い続けるのかというたった一つのことを聞き続けていたような気がする。羽生はよく言ったものだ。

『闘うものは何もないんです。勝つことにも、将棋を指すことにも意味はない。だから突き詰めちゃいけない』

 その突き詰めてはいけない将棋を指す意味を、羽生は考えることが増えたという。

「将棋を究める作業で言えば、人間が一生でできる将棋はたかが知れている。大きいPCを使ったら一日くらいで、一生分のシミュレーションができちゃう(笑)。だから、何のためにやってるのかなって。

 局面について考えていると、必然的にそういうことを考えるんですよ。(思いついた手が)これ、AIで検索済みなんだろうなとか、AIの枠組みに入ってるんだろうなとか。またすぐその外側をふらふらしてみて、どこに行けばいいんだろうって(笑)」

https://number.bunshun.jp/articles/-/856099?page=1